ハラペコ注意!おいしく・たのしく・わくわくなファンタジーに夢中!
- ★★★ Excellent!!!
異変を感じたのは夜のこと。
夕餉を終えてすぐだというのに、読めば読むほどなぜだか「ハラペコだ!」とコンフェッティのように脳だけじゃなく身体までもが訴えてくる。地元で話題のパン屋が開くまであと12時間もある、とうっかり数えてしまったときには、“クロワッサン”の文字が出てくるだけで気を紛らわそうとカフェオレを流し込んだ。それぐらい、とにかく読んでいるわたしたちのお腹にも作用する、まさしく「おいしいファンタジー」に偽りなし。
どうにも仕事より食に興味と情熱が傾く主人公のコンフェッティと、そんな彼の相棒兼お目付け役の愛らしいトイプードル(※魔獣)のミニュイ。神や魔族の住まう“最果て”と人間界をつなぐ「扉」の管理をする国家公務員のふたりが今回赴くことになったのは、食と芸術の都、フランスのパリ。けれどコンフェッティは仕事よりも現地の「おいしい」に夢中になる一方で……というストーリー。
日常もの・グルメものとしても楽しめる前半部分では、とかく仕事を放り出して「いいじゃんいいじゃん」と食に走るコンフェッティと「いい加減仕事してください!」とそんな相棒に苦労するミニュイのやり取りだけでも楽しく、薄荷の煙草を愛するガーゴイルなど魅力的なキャラクターもたくさん。
それが読み進めるごとに、「コンフェッティがなぜ人間界の食に夢中なのか?」などキャラクターの本質に迫るようなエピソードも出てくるので、単なる日常ものとは一線を画しているのも魅力的。
個人的には元々ギリシャ神話が好きなので、ニケやアポロンなどお馴染みの面々の登場はもちろんのこと、ディオニューソスが〇〇〇なことになっている、など作家さんの解釈が面白い方向にぶっとんでいてとても楽しい。
そうそう、ぶっとんでいると言えば、ジョージ・ワシントンなど実在の人物が多々“最果て”の住人として登場してくることも外せません。「おいしい」ことへのこだわりは最早ほとんどの方がレビューでも挙げられるほどですが、芸術や歴史、そして土地への愛すら感じられるのはこの作家さんの巧みさだなぁと思います。
きっと作家さんの「好き」が詰まっているからこそ、読んでいるわたしたちも、まるで文字で景色や、空気や、芸術や、そして「おいしさ」を味わっているような気分になるのでしょうね。
ところで、第一部などの隣についた「パリ編」「ノルマンディー編」という文字を見ると、この先もきっと「バルセロナ編」だとか「ローマ編」だとか、また新たな二人の冒険が始まるような気がしてきませんか?ひょっとしたら今も、もうコンフェッティとミニュイはどこかの扉を開いたり、閉じたりしているのかも。たとえばヘルシンキで、たとえば東京で。
だって「扉」と「おいしい」は、この世界中にあるのだから。
そう思わせてくれる素敵な作品に愛をこめて。