書籍化希望!やさしさに満ちた王道ファンタジー、まさにこれを待っていた。
- ★★★ Excellent!!!
『ハリー・ポッター』シリーズが日本の書店で販売されたとき、かつてトールキンや『ナルニア国物語』を楽しんだであろう大人たちはどんな気持ちだったのだろう。きっとちいさな頃、それこそ作中の言葉を借りれば“童心”がはじけて、胸の中にふたたび魔法のきらめきがよみがえるのを感じたのではなかろうか。現にわたしは、大人になったはずの今、この作品を読んでふたたび、言葉や、物語の持つ魔力に魅せられている。
ステファン・ペリエリはふしぎな力を持つ男の子。厳格な母はふしぎな力を認めず、さらには突然いなくなってしまった父との離婚は秒読み。そんなお先真っ暗なステファンの目の前に、ある日、本物の魔法使いがやってきた――。
物語はステファンが魔法使い・オーリローリの弟子となったことからはじまる。
オーリと契約している守護者であり、竜人の生き残り・エレインや、料理上手だけど普通の人間のマーシャ。
他にももちろんさまざまな登場人物が出てくるにもかかわらず、誰ひとりとして他に負けることなくその魅力を発揮し、ステファンが彼らを好ましく思う頃には、読んでいるわたしはもう彼らが大好きになっていた。
それはひとえに、キャラクターに息を吹き込む作者の筆致がなせること。
こういった心温まるファンタジーで技巧についてくどくど触れるのは野暮だとは思うけれど、とにかく言葉ひとつひとつに力があるのがこの作品の魅力のひとつでもある。洋画や、それこそ翻訳された海外の児童文学の言い回しは日本人には相当難しく、真似ようと思っても意味のないものになりがちだ。
作中にて“語り部”の存在が出てくるが、読んでいるわたしからすると、この作者自体がとても優秀な語り部だ。キャラクターに、物語に、そして言葉に息を吹き込む魔法使い。
また、何よりこの作品は、魔法や竜人などわたしたちの世界にはないもの(もしくは、想像上のものとされているもの)を取り上げてはいるものの、一貫して語られているのは家族の話だ。それはちいさなひとつの家族であったり、おおきな、種としての家族であったりする。それから、たぶん、わたしたちが忘れてはいけないこと。いつまでも持っておきたい気持ち。
わたしは元から児童文学のたぐいが大好きだから、この小説がお気に入りになるのは自然なことだとも思う。きっと児童文学や魔法と聞いて「おっ」と腰が上がるひとなら、出逢えた喜びに満たされるだろう。
けれど、それだけじゃない。この世に魔法なんかない、と思うひとにだって読んでほしい。
だってきっと、読めば分かるはずだ。
言葉や、この小説の魔法に魅せられたのなら、「この世界には魔法だってあるんだろう」、そう思えるはずだから。
(だから頼みます…書籍化を…書籍化をお願いします…児童文学系版元のみなさん…お願いします…)