僕は「肉」が食べられない。なぜなら、僕は「父」を食べたことがあるからだ――。
衝撃的な疑惑を土台に据えた、まるで御伽噺のようなはじまりは、そのまま最後までページを捲る手を止めさせない。キャラ文芸らしく、芝居めいた口調の美少女探偵×薄幸の美少年(と、父君の姿から想定できる主人公)の甘酸っぱい関係性もさることながら、描かれているのは静かで重く、そして激しい愛と執着につい引き込まれて読み進んでしまいました。
特に、この作品で最も素晴らしいと感じたのは、作中作で登場する虎と一角獣の童話の話。ミステリーに登場する童話や数え歌の類は、それこそ城平京の「名探偵に薔薇を」やアガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」などお決まりにも思えるけれど、この物語こそがこの作品における全ての本質であり、登場人物の気持ちに結びついた、最高の作中作。個人的にはこの不思議な世界観がかなり魅力的だと感じたので、ミステリーだけじゃなく童話も読んでみたいなと感じる、素敵な筆致でした。
僕は本当に「父」を食べたのか?それはぜひ読んで確かめてみてください!
あのとき僕が食べたのは、父親の肉だったのではないか。
幼い頃のトラウマで肉が食べられなくなった蒼依は、クラスメイトの美少女、月ヶ瀬柊と出会う。
父の死と決別するために、蒼依は月ヶ瀬さんと事件を調べることに。
月ヶ瀬さんのキャラクターが最高でした。クールでミステリアスで、だけど優しい。最強じゃないですか!
根拠のない励ましでも、ただの気休めでもなく、ロジカルな思考で蒼依に寄り添う姿が素敵です。
他のキャラクターも良かったです。
特に朔良さんの憎めないちょっとダメな大人感がツボでした。
当時のことを知る人たちに聞き込みをしていく蒼依と月ヶ瀬さん。
少しずつ明らかになっていく、蒼依の知らなかった父親のこと。
結末が気になって、ぐいぐいと引き込まれました。
事件の真相にも驚きましたし、それを乗り越えていこうとする蒼依と、最後まで冷静な月ヶ瀬さんの推理力に感動しました。
ちょっとダークなミステリーが好きな人なら、満足できること間違いなしの作品です!