それは近未来SFではなくて現代ドラマ。リアルなセキュリティ攻防戦。

 ――ハードボイルドだなぁ

 読んでいてなんとなく、そんなふうな印象を僕は抱いた。

 サイバーセキュリティ小説コンテスト参加作品にして、作者ご本人がセキュリティの仕事をされている梧桐さんによる、本格的な現代ドラマ。
 ショウとサクという二人の男を中心に、サイバーセキュリティの攻防、そして人間ドラマを描く。

 作者本人が「これはSFではない!」と断言されている通り、本作品のポイントは、基本的には既存技術のみを用いているところにある。
 専門用語は多めですが、かなり、技術考証がしっかりしている印象を受けるのが魅力的です。適当な人工知能用語をぶっ放すお子様SF作品とは、そのあたり一線引かれています。

 セキュリティにしろ人工知能にしろ、様々なところで、明文法や不文律で縛られてバランスの中でこの社会は秩序を保っている。そのタガが外れれば、――誰かが命をかけて外しにかかれば、この世界は意外にも脆いのかもしれない。

 本作品の中では一人の天才が苛立ちの果てに、そのゾーンに突っ込み、そして、主人公が様々な思いを背負いながら、それに立ち向かっていく。

 小説全体の雰囲気は夜のお酒が似合いそうな大人びたムード。そんなムードに酔いしれながら、読者は怒涛のラストへ向かうでしょう。読みながら「その色の帽子を取れ」のタイトルの意味を理解して、そして、ネットの向こう側の帽子の色に思いを馳せられんことを。

 

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