術は技を縛らず

 空手バカ異世界が完結した。

 物語の導入から『空手vs炎の魔神イフリート』ときている。掴みとして、あくまでも物語の掴みとして、ファンタジーでも強敵である上位精霊炎の魔人が空手の前に沈むさまは心に刻み込まれた。「ああ、これは面白い!」と。

 その後の更新もその話で対決がこなされたり、前編後編、長くとも前中後編の三話で対決が見せ場と共に終わるという、実に期待を持たせそそる構成。これはまるで格闘ゲームのような怒濤の連戦。しかも、まったくもって自然に空手家が戦い続けている。これはすごい。日常=空手。

 空手家の行動原理は簡単だ。強いヤツと戦いたい。それに尽きる。彼の言葉も真摯に『戦い』に対して向かい合う気持ちのよいものだ。誰が相手であろうと、何が相手であろうと。

 その戦いの数々において、空手家は様々な『技』を以て戦う。しかし、驚くべきことに、技を殊更に魅せたいがために状況を用意していないことが驚きだった。自分などは「この技を試したいからこの敵にこうさせよう」という思惑が透けるような構成になるだろうが、筆者は違う。全く以て『その敵ありき』で空手家を対峙させ、実際に対決を描写するように物語っている。これはしっかりと術理を把握していなければ書けない構成だと思う。

 技は、その状況その状況において発動した動きに付いた名前であるとするならば、作中の主人公である空手家がいかなる状況においても取るリアクションすべてが『空手』になるのも頷けるというもの。

 その『空手』とは何か。
 物語の終盤でそれは確かな感情と共に読者に明かされる。是非ともこれから読む皆さんにも、空手とは何かを自分でしっかり口にできる体験をしてもらいたいと思います。

 面白かった!

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