第三話【自宅】

 真村雪と別れ、家に帰った。

 服に付いた雪を払ってから家の中に入る。

 靴を脱ぎ、十六畳の居間に入るとテーブルの上に置いてある、自分の顔と同じくらいの大きさの玉子型のロボットが、「オカエリナサイ」と棒読みで挨拶してくれる。

 リビングから料理している様子が見えるキッチンに憧れ、この家を選んだのは良いのだが、悲しい事に料理をしてくれる人も、ましてやこのロボット以外私に挨拶してくれる人は他にいない。

「ただいま」

 と独り言の様にとても小さな声で呟き、肩からかけていたカバンとコートを、コートハンガーに投げかける。

 そうだ、と思い出し、靴と服に備え付けの乾燥スイッチを押す。これで明日には、どちらも乾いているはずだ。

 ふと時計を見ると、時刻は十九時を回っていた。

 テレビをつける気にもなれず、手洗いもしないでソファーに腰をかけ、なぜ探偵になったのかを考え出す。

 最近の癖だ。ろくに稼げもしないこの仕事を選んだのは何故だっただろうかと考えても無駄なことを考えてしまう。

 それは確か、子供の頃。まだ父が生きていた頃だから、五、六歳の時の事だ。父の見ていた古いヒーロードラマの主人公に、憧れていた時期があった。

 普段は探偵をしていて、人の悩みを解決し、怪人が現れれば、ヒーローに変身して街を守る。

 子供騙しだと言われるかもしれないが、その頃は純粋に、そのヒーローをとてもかっこいいと思っていた。

 今思えばそれが、だったのかもしれない。

 ただ、この仕事をしていると時々思うことがある。探偵を辞めたいと。現実はそんなドラマと違って世知辛い。アルバイトをしてギリギリ生きて行けているという程度だ。

 ただ、実際に探偵を辞めることはできないのだろうなとも思う。どんなに小さな依頼だったとしても、解決してあげた人が喜ぶのは嬉しいことだし、その顔を見るのはとても好きだ。

 結局私は、何年経ったとしても死ぬ直前まで探偵をしているのだろう。


 ――右手に持っていたスマホが鳴る。

 寝てしまっていたようだ。画面の上の方を見ると二十一時と表示されている。

 届いたメールを確認すると、件名に『都合の良い日』と書いてあり、真村雪からのものだと分かる。雑貨屋での別れ際に、メールアドレスを教えておいたのだ。

 本文を見ると、用事が立て込んでいて、明日しか時間がないと言うようなことが書いてある。それならばと私は、今日と同じ時間、場所で会いましょうとメールを返した。

 彼女からすぐに「はい」と言う返信が届き、私はスマホのアラームに予定の十五分前の時間を設定した。

 ソファーから立ち上がり、キッチンの水道で手洗いとうがいをすると、その手でやかんを持ち、水を入れて電気コンロのスイッチを入れた。

 夕飯はカップラーメン――いつも通りの塩味だ。最近は味を選ぶのも面倒になり、月に数回同じ味のカップラーメンをまとめて買うことにしている。

 麺を啜りながらテレビを付けると、バライティー番組がやっていて、チャンネルを変えるのも面倒だったため、そのままそれを見ることにした。

 その番組は昔から、世界で起きた不思議な事件などを扱っているものだった。

 画面の右上には『消えたはずなのに、なぜ?』と書いてあり、三年ほど前にアメリカで起きた事件が話題になっていることがわかった。

 事故で亡くなった中学生が、数日後に何事もなかったかのように登校して来たと言う話だ。

 番組内ではその子が双子だったのではとか、そもそも死んでなかったのではとかと言われているが、そもそもネタがガセだったのではないかというのが私の感想だ。

 カップラーメンを食べ終えた私は、風呂に入って寝た。

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