第四話【出会-2】
-B-
雑貨屋に着くとカフェスペースで彼を見つけた。我々が付いた時にはもう店を出ようとしていたところだったので、私はそれを捕まえ、もう一度席に座らせて話を聞く事にした。
真村雪には、離れたところから会話を聞くようにと言っておいた。面倒くさいことになるのは嫌だから、彼だという確証を得てから合わせることにしたのだ。
先程コンピューターに表示された情報と、真村雪の記憶が正しければ、目の前にいる男性の名前は
今日はとりあえず、連絡先でも掴めれば良い。
「ウチの雑誌のモデルが足りなくなってしまいまして、速急にモデルが必要になったためスカウトをしているのですが…興味あったりしませんか」
探偵と言うと怪しまれる可能性があるため、嘘をつく。名刺も一応作っておいた。
「ごめんなさい、あんまり興味ないです」
「そうですか。一応、連絡先を教えて頂けませんか。あと、顔写真だけ一枚。モデルが見つかり次第、処分しますので」
「えっと、興味はないって」
「お願いします、上司に努力してないと思われたら、今度こそお
彼は少し悩むと、絶対に情報の悪用はしないかともう一度聞いてきたので、当たり前だと答えると写真を撮らせてくれた。
「電話番号はこれです。因みに、僕は絶対にモデルにはなりません。頑張って他の人を探して下さい」
「ありがとうございます。恩に着ます」
私がそう言って頭を下げると、彼は「では」とだけ言い、帰って行った。
少し気になったのは、彼がここで何も買っていない事だった。私が彼を捕まえる前、彼がここを出ようとしていた時から、彼は手ぶらだった。カフェスペースにいても、コーヒーさえ飲んでいなかった。
真村雪の知り合いの店員の話によると、四日前に一度来てから、毎日ここに来ていると言う。いつも、朝の九時から長くて三時間くらい居るが、何も買わないし、何も飲まない。イケメンだからという理由で、好きにさせていると言っていた。イケメンは何でも許されると言うのは嘘ではないらしい。
それと、更に有益な情報としてはいつも時計を気にして、誰かを待っているように見えると言っていた。
-C-
マスターのカフェに戻って、真村雪に先ほどの写真を見せると彼女は色んな感情の混じったような表情で、
「彼です。服の襟が片方だけ内側に入っているのも、彼の癖でした」
それなら、後は彼女に彼を会わせるだけだなと思った瞬間、マスターがやって来て言った言葉に、我々は疑問を感じた。
「何でですか。やっと彼を見つけることが出来たのに」
彼女は悲しみの全てを込めたように叫んだ。
「何故だ。それでは私の仕事は成立しない」
私も言う。これでは非常過ぎるし、利益も得られない。彼は山葉広樹に会うなと言ったのだ。
「ですが彼に会ったら、二度と彼には会えないですよ」
「なら探せばいいだろ」
彼が会えないと言うのは、彼が誰かを待ってあそこにいるからだろうと思ってそう言った。しかし同時に、マスターにその話はしていないと気づく。
「今の彼では無理だ。一度彼女が、いや、彼の存在を以前知っていた者が会えば、二度と会えなくなる。即ち、彼は消える」
意味が分からなかった。昨日言っていた、マスターの言葉と同じように。
「言っている意味がわからないです。私が彼と会えない理由をちゃんと教えてください」
「彼の存在は今はまだ不安定だ。詳しいことは言えないが、今の彼に会えば消滅する」
「分かった」
分からないことが、分かった。
ついでに真村雪に睨まれた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます