浮遊:1【夢】

 夢を見た。

 途方もなく長い夢を。

 その世界で僕は死んでいて、一人の少女が泣いているのさえ、慰めてあげることが出来ない。

 雪は溶けて、春が来て、夏が来て、秋が来て、また冬がくる。

 少しずつ天へと登っていき、その間に何年が過ぎたことか。もう、数えるのもやめてしまっていた。

 その間に、僕の住んでいた家には他の人が住むようになったらしい。僕の家族とは別の人が帰っていくのを何度も見た。

 これからどこへ行くのだろう。

 地獄は地下にあると聞いたことがあるから、上に登っていく僕は多分、雲の上にあるという天国に行くのだろう。

 とても悪い事をしたのに、天国か。

 僕がした一番悪いことは、大好きだった彼女を置いていったことだ。手紙を置いていったのは、あまりいい考えではなかったかもしれない。

 あの世界に僕の気持ちを残してしまった。


 雲の上を通り過ぎたところから、異変を感じ始めた。

 地球から出たと思ったら、何かの力に引っ張られるような感覚がし出したのだ。もちろん、僕は死んでいるのだから感覚なんてあるはずがない。だけど、感じるのだ。

 僕が出た後から、地球はどんどん黒くなっていった。きっと天国も真っ黒だろう。


 ――しばらく寝ていたようだ。

 僕は体育座りのような格好で、宇宙空間をくるくると回っている。

 目の前には先程離れたはずの地球がまだあった。

 ただ、何かがおかしい。真っ黒になったはずの地球が元どおり青い。それに、大陸の形も少し変だ。例えば、日本列島の上部と下部がユーラシア大陸と繋がっている。昔見た、地球の歴史の本に載っていた、少し前の地球のようだ。

 多分、この地球は地球じゃない。僕は地球から、この星に引っ張られてきたのだから。

 ここに来るまでに、僕は少しずつ歳をとっていた。本当に生きていたら同じくらいの身長になっていただろう。

 地獄でも、天国でもなく、この星が終着点だったのだ。


 僕は、きっとこの世界が正しくて、夢から覚めた後の世界が虚構であることを、なんとなく分かっていた。


 ――目を開けると、病院のベッドの上にいた。

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