第二話【雑貨-2】

 -B-

「いつの間に雑貨屋になっていたんだ」

 その雑貨屋の外装は、前からあった喫茶店のままだったので、元々喫茶店だったのをそのまま使っているようだった。喫茶店の時に一度だけ来たことがあったが、すごく不味いコーヒーが出て来たのを覚えている。

 店の外に前からあった喫茶店の看板もあるから、コーヒーが売れなかったために同じスペースで雑貨屋を始めたのだろう。目の前に住んでいたはずなのに気づかなかった。

「まるで、あの絵本の魔女の家ではないか」

 そう軽く笑ってから私は、店に入る。

 あまり来ることのない雑貨屋には、体が慣れない。雑貨屋の、女性しか立ち入っては行けないような雰囲気が、あまり好きではなかったのだ。

 店の中はラベンダーやローズなどの花の香りが充満していて、しかし、それほどきついものではなく、それが入り口近くの石鹸から発せられているものだと知ると、私はラベンダーの香りのするその石鹸を手にとった。

 同じ棚に置いてある薄い金のインクでサンタとソリが描かれた便箋のポップに、赤い字で『クリスマスプレゼントにピッタリ』という言葉が書いてあるのを見つけると私は、そうかピッタリなのかと納得しカゴを探して石鹸をそこに入れた。

 母へのプレゼントはもう決まったのだから、店内を一周したらすぐに帰ろうと様々な紙が置いてあるコーナーに入った時、知った顔を見つけた。

 私に幼馴染の男の子を探して欲しいと依頼した、真村まむらゆきだ。

「あら」

 先に声をかけたのは彼女だった。

「探偵さんじゃないですか。ここには、何しに?」

 付けてきたとでも思ったのか、彼女は少し怪しむような顔をして聞いてきた。

「あぁ、ちょっとな」

 彼女が私の事情に入り込む義理はない。とは思ったが、今言ってから気づいたが、これではむしろ怪しむのではないか。

「付けてきた、ってわけでは無いようですね」

 彼女は私の持っているカゴを指差した。

「あ、はい。母へのプレゼントを買おうと思いまして」

「それなら、私選びましょうか?」

「いや、もう帰るつもりだったんだが」

 プレゼントならもう選び終えている。

「あ、そうなんですね。お母さん、喜ぶといいですね」

「そうだな」

「そういえば、さっきの話の事で伝え忘れていたことがあって」

「なんだ」

「彼を見たのはこのお店にいた時なんです。三日前に、あそこのカフェスペースから外に出ていくのを、丁度のタイミングで見たんです」

「そうか」

「それに、知り合いの店員の話だと、彼はその時ここに初めて来たみたいで」

「その時、追ったりはしなかったのか」

 追っていたら、自分に依頼は入らなかったんだろうなと思うと、自分的には、それでよかったのだと思う。

「そうですね。その時はまだ、半信半疑だったんで」

「その時は、と言うと?」

「彼、その時に片方しか手袋を付けていなくて、その片方の手袋を見てあれ、と思いまして」

「手袋って、もしかして」

「そのもしかしてです。あの時、雪だるまに使った手袋と同じデザインのものがその人の右手にはまっていたんです」

 彼女の話を聞いていて、ひとつだけ疑問に思うことがあった。子供用の手袋は、大人の手には小さ過ぎてはまらないのではということだ。

「その手袋は今も持ってるのか?」

「はい。机の引き出しで今も大切に保管しています」

「…それ、貸してもらうことは出来ないか?もしかしたら、彼のことを少しは知ることが出来るかもしれない」

 の技術を使えば、もしかしたらだが、彼のことが少しは分かるかもしれない。

「…わかり、ました。彼を探すためなら」

「それじゃ、都合のいい日をまた電話してくれ。俺は帰る」

 それに、情報を整理する必要がありそうだ。

「わかりました。では、また」

「あっ、俺も言い忘れたことがある」

 俺に背を向け、商品に目を向けようとしていた彼女が、こちらを振り返る。

「なんです?」

「前金に5万貰う、次会うときまでに用意しておけ」

「わかりました。ちなみに調査料はどれくらいかかるのです?」

「そうだな、調査の仕方によって変わってくるし、詳しいことは言えないが、これだけは言える」


 るいは少しだけ息を吸って、


「あなたの、涙次第です」


 そう、答えた。

 この言葉こそが、彼が涙探偵と言われる所以であった。

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