やさしいお話なのです。

 やさしいお話なのです。でも、人間だからダークな部分もあるのです。でも、やっぱりやさしいお話なのです。


 つらい境遇を背負って育った花村みづき。高校生の頃、彼女の折った千羽鶴をもらった過去がある田沢洋也。

 ふたりは数年後、別の地で偶然再会する。そこは世界遺産に認定された富岡製糸場と絹産業遺産群が見守る土地だった。


 恋愛小説なのだが、恋のライバルとか泥沼の三角関係とかは出てこない。つらい境遇に育ち、そこから一人、自分の居場所を見つけて小さな花を咲かせようとしているヒロインと、彼女に興味を持ちつつも、その気持ちを素直に表せなかった青年が、ゆっくりと近づき、互いの気持ちを確かめ合う物語。

 全体に流れるふんわりした空気と、やさしい文体が、なにやら読者をほっこりした気持ちにさせてくれる。もちろん、ストーリーの起伏上、残酷な人間や、悪意を持った人たちも出てくる。だが、そんな冷たい雨や激しい風にも負けず、やさしい花を咲かせようとするヒロインと、彼女を暖かくつつむ日差しのような彼氏の、もどかしくも優しい恋の話が、春先の日向ぼっこのような温かさを読む者に与えてくれる。

 恋に傷ついたり、人間関係に疲れたりしたあなたは、どうぞ本作をお読みください。

 そして、誰かのために、千羽鶴を折ろうというヒロインの一途な気持ちに癒されてください。





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