第7話 世の中は金

 15人。


 今の俺に出せる名倉の数の限界だ。


 ちょっと想像して欲しい。クラスの半分が名倉で埋まった教室。全員名倉のラグビーチーム。怒れる12人の名倉と普通の名倉3人。


 しかも名倉は召還する度に名倉同士で例の挨拶を交わす。15人目を召還した際はちょっとした軍隊の挨拶みたいになったし、聞き過ぎてもう後半何と言っているか分からなくなっていた。ゲシュタルト崩壊という奴だろう。


 何故16人目が召還出来ないかも、このゲシュタルト崩壊に絡んでくる。というのは、召還するのに1回1回頭の中に名倉を思い浮かべるのだが、段々名倉が何なのか分からなくなってくるのだ。魔力が足りないとか、身体が疲れてくるとかそういう事ではなく、名倉の事を考え過ぎるせいで段々訳が分からなくなってくる。思い浮かべようとしても、脳裏に浮かぶのは気の良さそうなタイ人の青年で、目の前に本人がいるにも関わらず、名倉の事を考えられない。嘘だと思うなら是非やってみて欲しい。名倉本人がやってもそうなるだろう。


「いやいや、15人も同時に召還出来るので十分ですよ。しかもこの奴隷達は全員が絶対服従なのでしょう? あなたは私が見てきた中で最強最高の召喚士だ」


 名倉酔いで若干気分の悪い俺とは対照的に、ウェダはご機嫌のようだった。


「是非ともこの街専属の召喚士として滞在してはくれませんか? もちろん褒美はたんまりと。これくらいでいかがですか?」


 どさり、と目の前に置かれたのは銀貨のたっぷり入った袋。お金の単位と価値が分からないので聞いてみると、「1年は食べていける金額ですよ。それを1ヶ月ごとに差し上げます」と言った。まあ無一文だし、金はあって困る事はないが……。


 まあ、このウェダという男が悪人だったとして、その尻尾を掴むのに懐へ飛び込むというのは良い手のような気がした。そう考え、俺はウェダの提案を受け入れた。


「それで、名倉達に何をさせるんです?」

「ご説明しましょう」


 それからウェダが語ったのは、おべっかと下手な冗談と予防線がたっぷり入った長い話だったので、要点を掻い摘んでいこう。1度整理したい。


 この街から北に、更に巨大な街がある。そこは今近隣国の戦争と、人口増加による内需で、人手不足に陥っている。特に製鉄をさせる為の奴隷が足らずに、商人は奴隷を買い漁って値段が高騰しているそうだ。


 一方でこの街は、数年前までは農業が順調で、そこそこ発展していたのだが、去年今年と不作が続き、農家も休業状態で、畑は荒れている。まともな産業が農業くらいしかなかったので、失業者が相次ぎ、ウェダは彼らを北の街へと送り届け、仕事を斡旋しているそうだ。とはいえ、この街に愛着のある人もまだまだ多く、奴隷同然の扱いを受けるのも抵抗があり、北の街ではまだ人が足りていない状態なのだという。


 そんな状態の時に現れたのが俺と名倉だった訳だ。名倉を北の街に奴隷として派遣し、得た金を使ってこの街を建て直したい。ウェダはそう熱く語った。


 奴隷を連れて、北の街に行くには近くの洞窟を通り抜けるのが近道であり、今まで何度もこの街の人を送り届けているので心配はいらないそうだ。


「奴隷の引き渡し等は私が責任を持って行います」

「それなら、俺がその北の街に行って、そこで名倉を召喚した方が早いのではないですか?」


 ウェダは心配そうに答える。


「あなたの名倉マンサーとしての力が知られれば、何をされるか分かりません。もちろん私も護衛は連れて行きますが、それでも守れるとは限らない。私はこの街を救いたいだけなのです。最悪私が北の街で捕まっても、決してあなたの事は言いませんし、私の遺志は誰かが継いでくれるでしょう」


 勝手に盛り上がってる感もあるが、言っている事はそこまで間違ってもない気がする。結局やる事が奴隷商人な所に正義とは何ぞやという疑問も浮かんだが、それを言い出すと名倉マンサーとしての俺の立ち位置が危ぶまれる。


 まあ、どうもこの名倉は、本物の名倉とはちょっと違う性質を持っているようだし、今更人権問題を気にするのはやめよう。


 しかし命まで狙われる可能性があるとなると、給料には交渉の余地がありそうだ。そう思った俺は、ある事を提案してみた。

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