職業:名倉マンサー
和田駄々
第1話 ランダムで
「え!? 職業選べないんですか!?」
轢かれたんだか飛び降りたんだか、どっちだったか忘れたが、とにかく現世で死んだ俺は、異世界へ転生する事になった。
雲の上で、いかにも神なお爺ちゃんから、異世界に行くにあたっての説明を受けている時の事だった。
「いや、まあ、何か特技とかあるなら別なんだけどね。剣道やってたなら剣士とか、理数系が得意なら魔術師とかね。でも別に君現世で何もしてなかったでしょ?」
生活指導の先生でも言いにくいような事をズバッと言ってくれる神様に、俺は凹みつつも「そりゃそうですけど……」と不服を露わにした。
「前はね、そういう人には希望を聞いて、職業とそれに対応したスキルを付与してたんだけど、なんかもう面倒くさくてね。後から『やっぱ別のに変えてくれ』だの『イメージしてたのと違った』だの『もっとスキルくれ』だの……。だからもうここは、色んな職業の中から運1発勝負で決めて、それで終わりにする事にしたの。返品返金クレームの類は一切受け付けません」
おい、全知全能、コラ。確かに俺は取り柄も何も無いが、お年寄りには優しくしてきた。だから死んだ人にはもっと優しくしてくれと言いたくなる。
とはいえ、これで下手に逆らって異世界転生その物が無しになっても困る。
「うーん、ランダムなのは分かりました。で、どうやって決めるんですか?」
「はい、どうぞ」
どこからともなく取り出したのは、赤と緑と金の煌びやかなボックス。やたらハッピーそうな見た目だ。こっちは死んでんだぞ。少しは喪に服せ。
「この中に手を突っ込んで、玉を1個を取り出して。そこに書かれてたのが君の職業。何引いてもやり直しは無しね。じゃ、さくっと行ってみよう」
我儘かもしれないが、緊張感が欲しい。町内会のビンゴ大会の方がもっと厳粛だった。
「ほら、何やってんの。ちゃっちゃと行こうちゃっちゃと」
「わ、分かりましたよ」
黒いスポンジで覆われた箱の穴に右手を突っ込む。確かに、中には丸い玉がいくつか入っていた。ぐるぐると回して、底の方にあった玉を掴む。
引いた職業のスキルがもらえるっていうくらいだから、出来ればスキルを沢山持ってそうな魔術師系が良いな。聖騎士とかも捨てがたい。拳闘士だと肉体も強化されるんだろうか。盗賊はやだな。そんな事を思いながら、玉を掴んだ手を引き抜く。
書かれていた文字を読む。
「……名倉マンサー?」
「おめでとう。おぬしはこれから名倉マンサーとして異世界へ転生する。そしてそこに蔓延る悪を打ち倒した時、現世への再転生を認めよう。それでは、はりきって行ってみ……」
「ちょちょちょ、待ってください! 名倉マンサーって何なんすか!?」
「読んで字の如く名倉を使役する職業でしょ。分かるだろ」
「分かんねえよ」
名倉を使役って何だ。そもそも名倉って何だ。
「名倉ってあれだよ。ネプチューンのツッコミ」
「あのタイ人みたいな奴?」
「そう。タイ人みたいな奴」
「あれを使役するんですか?」
「正確には召喚して使役する。まあ召喚士の亜種みたいなもんだよ」
じゃあ召喚士で良いじゃん。何で名倉限定なんだよ。
「ていうかそもそも、職業って言ったら普通剣士とか弓使いとかそんなんじゃ無いんですか? 何で名倉マンサーなんて入ってるんですか?」
「もちろんそういうのも箱の中には入ってるけど、君がたまたま引いたのが名倉マンサーだった訳じゃん。それに対して文句言われても、神困るじゃん」
本当に困ってんのは俺だ。俺は再度玉に目を落とし、はっきりと濃い字で書かれた「名倉マンサー」の字面に絶望する。
「じゃあもう行くよ。さあ、これから君は異世界へ転生し、そこに蔓延る悪を……」
「ま、待ってくださいって。そうだ、スキルは? 名倉マンサーのスキルってどんなのがあるんですか?」
「だから、名倉を召喚して使役するだけだって。何度も言わせんなよ」
「だけ? それだけですか?」
「だってそれが名倉マンサーだし」
ほんと何なんだよ名倉マンサーって。そんなの出てきたゲームとかアニメ今までに1つでもあったか?
「あの、本当に勘弁して下さい。初めての異世界転生なんです。名倉マンサー以外なら何でも良いので、もう1回だけ引かせて下さい。お願いしま……」
「はい、ドーン!!」
そうして俺は雲の上から突き落とされ、異世界へと旅立った。
ふざけるにも程がある職業、名倉マンサーとして世界を救うために。
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