第6話 招待
「よく来てくれた。ささ、そこに座ってくれ」
スラムのような街とは対照的に、金ぴかな装飾品と格調高い調度品が所狭しと並ぶ豪華な屋敷、それがウェダの家だった。ウェダ本人はというと、しわくちゃの顔に浅黒い肌、ちりちりとした髪質のいかにも悪徳領主といった風情の男だった。
とはいえ、見た目とマリナさんの証言だけを根拠に殴りかかる程俺は野蛮人ではない。それに近くでは衛兵が武器を持って俺の挙動を観察している。指示には従うしかないだろう。
「この街へは何をしに?」
ウェダの質問に、俺は虚実を混ぜて答える。
「昨日は森の中で迷っていて、何とか抜け出してこの街を見つけたんです。疲れていたので一泊しようかと思ったんですが生憎お金が無くて、教会に雑魚寝でした」
「ふむ、そうか。なら今日はこの屋敷に泊まっていくが良い」
あれ? 見た目によらず意外と良い人なのか? いやいや、貧しい街でこれだけ豪勢な暮らしをしている奴が良い奴なはずがない。
「ところで聞きたいんだが、このチャムタイ族の奴隷はどうやって手に入れた?」
また出たわチャムタイ族。だからどんだけ似てるんだってのは置いておいて、名倉の方を向く。ここは正直に言うしかあるまい。
「これは名倉と言いまして、俺はこの名倉を召喚して使役する名倉マンサーなんです」
「なんと!」
ウェダが驚いている。俺も昨日は驚いたよ。自分が名倉マンサーになるなんて。
「西の魔術都市には召喚士達が通う学校あるが、せいぜい蝙蝠やらネズミやらが限界で、チャムタイ族の奴隷を召喚するなんて聞いた事がないぞ」
褒められてるのか馬鹿にされているのか微妙な所だが、少なくとも好意的である事は間違いないようだ。
「それで、名倉は何体出せる?」
実にクリティカルな質問だった。さっき名倉を再召喚した際に、もしや、と思ったアイデアでもある。俺の中で、名倉といえばあのネプチューンのツッコミ担当の名倉唯一1人だったので、出なかった発想だ。
もしや、名倉は増やせるのではないか。
「えーとそれは……やってみないと何とも……」
出来るとも言えないし出来ないとも言えない。名倉マンサーなりたての俺としてはそう答えるしかなかったが、ウェダの反応はやや重く、訝しげに俺を見ている。それもそうだ、自分の使う召喚術がどの程度出来るか把握していない奴なんて確かに怪しい。俺がウェダを疑って情報を隠していると疑われている訳だ。
となれば、
「ふむ……そうか。ではやってみてくれるか?」
当然こうなる。
さて、どうした物か。ウェダというこの金持ち領主は、今の所、少なくとも俺に敵意はなさそうだが、マリナさんが言っていた事も気になる。この街がスラム化している原因がこの男だという話だ。かといって1人の証言でこの人を悪だと決めつけるのも良くないし、そもそもこの状況でウェダを敵に回したら、屈強な衛兵達に取り囲まれるのは目に見えている。
「……分かりました。もう1人、召還してみます」
やってみて出来なければ、正直に出来なかったと言えばいい。ダメで元々のつもりで、もう1度名倉を頭に思い浮かべる。
「名倉やないかい!」
「名倉やないかい!」
うおっ、出た。2人目の名倉が出た。しかも名倉同士で、お互いに目を合わせて、「名倉やないかい!」とツッコミ合っている。やっぱりそれ挨拶なのか。ていうか名倉だよ。そう言ってる奴も名倉だし言われてる方も名倉だよ。
「素晴らしい!」
声をあげたのはウェダだった。
「チャムタイ族の奴隷を何の触媒も無く召還するなんて、さぞかし高名な召喚士の方なのでしょう。是非ともあなたの力をお借りしたい。最大で何体まで召還出来ますか?」
今まで若干高圧的だった態度も豹変し、敬語で喋りだしたウェダが俺の両手を力強く握る。
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