第10話 ラスボス
1日に出せる名倉の限界数は40。その内の10人をウェダに引き渡し、「今日は調子が悪くてこれしか出せなかった」と嘘をついた。ウェダは一瞬失望したような表情を浮かべたが、「仕方ないですな」と言って、いつものように名倉を連れて行った。
その後、俺はこっそりとウェダの後を追いかける。道中は目立つのでまだ名倉は召喚しない。
洞窟に到着した。想像していた物よりも入り口は小さく、人1人がかろうじて通れるくらいだった。ここに毎日名倉がぞろぞろと入っていく絵を想像すると凄くシュールだが、まだ新しい足跡がいくつもあったので、ついさっきその光景がここで起きた事は間違いなかった。
普通、洞窟といえば奥に行く程狭くなる物だと思うが、この洞窟は違った。どんどん道は広がり、天井は高くなり、手に持った松明の灯りだけでは分からないくらいに空間が広がっていく。
こんな所なら、何が出て来たっておかしくないぞ、と今更ながら恐怖心が芽生えると、道の先に別の灯りが見えた。影の形だけでも分かる。ウェダだ。俺はすぐ灯りを消し、音を殺して近づく。
「申し訳ございません。今日は10人しか用意出来ませんでした」
ウェダが喋っている。独り言という訳でもなさそうだが、こんな所で一体誰に話しかけているのか。
「ですが、随分とお身体も大きくなりましたし、完全復活の日は近いかと思われます。その暁には……」
「言うな……分かっておる……」
その声に、俺はぞっとした。地獄の底から響くような、低く唸り、やや掠れた、それでいてねちっこい、平たく言うと若本感のある、言葉を模した獣の鳴き声。俺は闇に目を凝らし、ウェダの目の前にいる何かを捉えようとする。同時に聞き耳も立てる。何かをボリボリと喰っている。
「しかし助かりました。この名倉達のおかげで、貴方様の復活が早くなった。街の人間だけでは1年か2年はかかった所が、わずか1ヶ月でここまで……」
闇の中にその全貌が垣間見えた。それは、1匹の巨大な生物だった。爛れたような皮膚で覆われた山のような肉塊に、いくつもついた目玉。体の底の方にはギラつく牙を覗かせる大きな口がある。人間1人なら楽に丸呑み出来そうで、事実、歪な歯と歯の間におそらくは名倉の物であろう腕の残骸が引っかかってた。
「ひぃっ!」
思わず声をあげてしまった。無理もない。こんな邪神みたいな奴が出てくるとは全く思ってなかったからだ。せいぜいゴブリンとかドラゴンとか、まあそれらでも嫌だけど、もっとファンタジー世界的に馴染みのある奴かと思っていたので、こんなクトゥルフよりの奴がラスボスとは思ってもみなかったのだ。
当然俺のあげた声に気づくウェダ。そして化け物の複眼が一斉に俺を睨む。
よし、逃げよう。
いやいや、勝てへん勝てへん。大抵の魔物なら名倉30人くらい召喚すれば人海戦術でいけるだろという判断は間違いだった。踵を返し、全力ダッシュ。名倉も1人、囮用に召喚した。
「邪神様! あれが話していた名倉マンサーです! 逃げるつもりです! 捕まえて下さい!」
てめえウェダ! てかやっぱそいつ邪神だったのかよ。もっと倒せそうな奴を準備しとけ!
などと毒づく暇もなく、俺は捕えられる。邪神からぐんと伸びた、図体の大きさの割には細くて長い腕が、簡単に俺を掴んだ。ぬめぬめとした感触と、骨が折れそうなくらいの握力。やばい、死ぬ。そう思って目を瞑ったが、邪神を止めたのもウェダだった。
「お待ちください邪神様。秘密がバレた以上、彼は殺さなければなりませんが、最後にありったけの名倉を召喚させてからでも遅くはありません」
邪神はウェダの言葉に耳を傾けていたようだが、次の瞬間、信じられない事が起こった。
ウェダが食われたのだ。
邪神の身体から伸びたもう1本の腕がウェダを掴むと、断末魔をあげる暇もなく口の中に放り込まれた、直後にはボリボリと音を立てて飲み込まれていく。
「人間の分際で我に指示するなど……無礼極まりない。どの道身体が復活すれば始末するつもりだった。そんな事もわからずに、人とは愚かな物だ」
邪神怖っ。まあ邪神だし当たり前かもしれない。ウェダはざまあって感じだが、そんな事も言ってはいられない。何故なら、次は俺の番だからだ。
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