第9話 名倉はどこへ消えた?

 異世界に来てから1ヶ月が経ったある日の事。俺は出荷分の名倉とは別に、もう1人、ウェダには秘密で名倉を召喚した。マリナさんが教会で貧しい人向けの催し物をするそうで、人手が足りないと聞いて、俺と名倉で手伝えればと思ったのだ。相変わらずお金は受け取ってくれないが、仕事を手伝う事は許してくれている。気分転換もしたかった。


 ウェダに秘密にしたのは、教えると出来るだけ人数が欲しいという理由で連れて行かれると判断したからだ。


 マリナさんの催しは上手くいった。催しと言っても、人を集めて少しだけ豪華な料理を振る舞い、聖書っぽい物を読んで祈りを捧げるだけの物で、いつもはマリナさんが1人で準備しているそうだ。


「手伝って欲しい事があれば、気軽に言ってください。いつでも名倉を貸しますよ」 と言うと、マリナさんは照れたように笑っていた。おっ、脈アリか?


 召喚した名倉は、ウェダが北の街に行っている間に屋敷へと連れて帰り、クローゼットの中に隠した。見ていると気が滅入るから仕方ない。「ここから出るなよ」と命令すると「かまへんかまへん」と名倉は答えた。


 問題は、その翌日に起こった。


 目が覚めて着替えようとクローゼットを開けると、名倉がいないのだ。


 屋敷の下男に名倉を見かけていないかと聞いても見ていないと言う。ウェダも見かけていたら俺に言っているはずだ。そもそも名倉は俺の命令には絶対服従。「ここから出るな」と言ったのだから、出ているはずはない。誰かに連れて行かれたとしたら、名倉も命令を守ろうと抵抗しただろうし、すぐ近くで寝ていた俺が気づかないのは不自然だ。


 名倉はどこへ消えた?


 異世界に来た初日の事を思い出した。確かあの時も、名倉は朝になると消えていた。それが名倉を複数召喚出来る事に気づいたきっかけにもなった訳だが、今考えるとあれも不自然だ。


 ひょっとして。


 俺は確認すべく、業務用の名倉とは別に再びもう1匹召喚し、クローゼットに隠した。そして召喚した時間からちょうど24時間測って名倉を観察する。


 名倉は目の前で消えた。


 どうやら俺の召喚する名倉は、1日で消滅するらしいのだ。


 名倉マンサーになって1ヶ月もこんな初歩的な事に気づかなかったなんて、俺はとんでもない愚か者だ。名倉以下だ。いや名倉は別に愚か者じゃない。ごめん、混乱してた。


 しかしこれによって、新たな疑問と、そこから生ずる疑惑が生まれた。


 ウェダは嘘をついている。何故なら、北の街に連れて行かれた名倉も消滅しているはずで、労働力にはなっていないからだ。


 1日で消滅する奴隷を売っているとなれば、ウェダは俺の所に文句を言いに来ているはずだ。となると、ウェダは名倉を一体何に使っているんだ? 何故ウェダも消滅している事に気づかないんだ?


 何にせよ、正義とは何かと揺らいでいた俺の心に一本の芯が通った。ウェダは俺と名倉を騙している。何かを隠している。俺にはそれを確かめる義務がある。


 翌日。

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