手にしたチートは「英雄の肉体」そのもの!

現代人が全く生態系の違う異世界へ行ったら、風土の違いに対応できず速攻で死ぬんじゃないか? という批判が世の中にはあります。

それを解決する手段として「現地人に憑依する」パターンがあります。それが、勇名を馳せた大英雄だとしたら……!?

冴えない少年が一躍、英雄の肉体に乗り移って大活躍! それもまた王道。そばに英雄の魂も付き添い、アドバイスに従って肉体を動かすやりとりが楽しいです。

一味違うのは「少年が気弱なまま」ということ。

これ重要です。
超重要です。

最強の力を得ても、彼は天狗にならない。慢心もしません。

初戦こそ勝利したものの、少年は有り余る力に戸惑い、人々からの期待にプレッシャーを感じ、迫り来る刺客に尻込みします。英雄にあるまじき醜態をさらします。

人間臭さがあるんです。
人は急に変われません。
強くなったからって突然ゲーム感覚で戦闘できるわけがないんです。

不相応な「英雄」を演じなければいけない建前と、早く現実世界に帰りたい本音。

このジレンマこそが、読者を感情移入させるトリガーです。悩まない奴に主人公の資格はありません。
「人間の葛藤を描いてこそ小説である」という原点を思い出させてくれます。

借り物の肉体を返却するその日まで、少年の成長を見守りたいと思わせる内面描写。

『英雄代理の小市民』
題名も素晴らしい。小市民なんてショボい単語を採用するのは珍しいな……と思ってページを開いたのは、どうやら正解だったようです。
魔法科高校の『劣等生』や『冴えない』彼女の育て方など、あえてネガティブな言葉で目を惹く手法ですね。

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