平凡な日常を満喫するはずだった主人公は、ある日、心霊スポットに赴き、置き去りにされてしまう。何と、本物の幽霊が出たのだ。ここまではまるでホラーのような雰囲気だ。しかしその幽霊こそ異世界の英雄の成れの果てだった。主人公は死にかけの英雄の代行として、「英雄の姿で」異世界に赴く。そこはまさに戦場だった。
平凡な生活を送るはずだった主人公は、そこでの人々の暮らしに触れ、「英雄」に励まされ、美女と出会い、生活がいつの間にか色づいて来ることを目の当たりにする。そして、敵とのバトルがついに始まる!
主人公は本当は英雄に憧れていた。でも、逃げていた。「英雄」は主人公に救われた。二人は信頼し合える友となり、相棒となり、お互いの守るべきモノのために力を振るう。
しかし最後は読者にプレゼントが用意されている、素敵な作品です。
是非、ご一読ください。
現代人が全く生態系の違う異世界へ行ったら、風土の違いに対応できず速攻で死ぬんじゃないか? という批判が世の中にはあります。
それを解決する手段として「現地人に憑依する」パターンがあります。それが、勇名を馳せた大英雄だとしたら……!?
冴えない少年が一躍、英雄の肉体に乗り移って大活躍! それもまた王道。そばに英雄の魂も付き添い、アドバイスに従って肉体を動かすやりとりが楽しいです。
一味違うのは「少年が気弱なまま」ということ。
これ重要です。
超重要です。
最強の力を得ても、彼は天狗にならない。慢心もしません。
初戦こそ勝利したものの、少年は有り余る力に戸惑い、人々からの期待にプレッシャーを感じ、迫り来る刺客に尻込みします。英雄にあるまじき醜態をさらします。
人間臭さがあるんです。
人は急に変われません。
強くなったからって突然ゲーム感覚で戦闘できるわけがないんです。
不相応な「英雄」を演じなければいけない建前と、早く現実世界に帰りたい本音。
このジレンマこそが、読者を感情移入させるトリガーです。悩まない奴に主人公の資格はありません。
「人間の葛藤を描いてこそ小説である」という原点を思い出させてくれます。
借り物の肉体を返却するその日まで、少年の成長を見守りたいと思わせる内面描写。
『英雄代理の小市民』
題名も素晴らしい。小市民なんてショボい単語を採用するのは珍しいな……と思ってページを開いたのは、どうやら正解だったようです。
魔法科高校の『劣等生』や『冴えない』彼女の育て方など、あえてネガティブな言葉で目を惹く手法ですね。
立国の英雄である騎士王との精神の成り代わり――――もうそれだけでロマンがある!
唐突に大役を担わされた主人公の譲治くんは、英雄ジョージ(ブローチ)の言動をそのままなぞりつつ、時には自分の意志と言葉を顕しながらなんとか『英雄代理』を務めていきます。その様は、少し滑稽だけれどどこかカッコよくて。
なにかの理由があって静かな日常に固執する譲治くんの心は、それでもジョージの強烈なヒーロー性に惹かれていき、確実に変わっていっています。
その結果、彼はどう成長するのか。当方はそれが楽しみでなりません。
大英雄にその思想を染められてしまうだけなのか。
あるいは、自分だけのなにかをつかみ取り、彼自身が『英雄』になるのか。
それとも――――
なににせよ、今後に期待できる作品であることには違いありません。要チェック! です!