「そうきたか!」の連続攻撃!

 ファンタジーは「何でもあり」だからこそ難しいジャンルだと思います。「何でもあり」が溢れる中、さらなる個性を輝かせて読み手の心に強烈な印象を刻み込まなければならないのですから。
 ファンタジーが好き、と言いつつ人様の作品を読んで勉強しようと思い立ったのはつい最近なのですが、その短い期間で得た悟り(?)の一つは、「そうきたか!」と思わせる要素が入った作品はめちゃくちゃ面白い、ということでした。特に、ファンタジーなのに現実世界をほうふつとさせる背景設定が織り込まれていると、途端に作品が身近に感じられ、ストーリーに深みと迫力が出るらしい……。

 その点、この作品は全編にわたって「そうきたか!」のオンパレードです。まず、異世界に入るまでの過程が「そうきたか!」です。コトの始まりはネットオークション。ネットゲームをやっていたら突然異世界に…、なんて生っちょろい始まり方ではありません。ガラクタをオークションに出してみたら値が付いた、なんていう極めて現実的なところから、この壮大な物語は始まります。
 そして、異世界の奇妙な人たち。まず名前がスゴイ。主人公の義経くんじゃありませんが、どういうネーミングセンスしてるんだ。しかし、後からこの名前のいくつかにはちゃんと意味があることが分かってきて、読み手は「そうきたか!」と二回唸ることになります。サブキャラは名前も中身もクセのある人たちばかりですが、義経くんの語り(地の文)がそれに負けないヒネリっぷりを発揮しているので、ますます「そうきたか!」という可笑しさ倍増。「そうきたんかーい!」と叫ばずにはいられないスレスレネタも重要なポイントです。
 しかし、私が一番「そうきたかあああ!」と感嘆したのは、異世界である日元教国の設定です。日元教国の文明は、リアル世界の抱える倫理観や社会問題をさりげなく風刺しています。すっとぼけたキャラと地の文に笑っていると、さらりと重いテーマが入ってくる。読み手はいつの間にか真剣モードになってしまいます。重いテーマに向き合う主人公義経くんは、いつものすっとぼけた軽快さの中に、ストイックな優しさをにじませていて、いつの間にかエラくカッコいいヒトになっている……。ファンタジーの魅力のすべてを「そうきたか!」という手法でぎっしり詰め込んでいる作品です。

 この「ドラゴライト」はシリーズ物で、第2弾では、すでに世代を超えた大河ドラマ的な様相を見せ始めています。第2弾冒頭を拝読した私めは、早くも「そうきたか!」と唸っております。

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