じゅうさん


ひさしぶりー、と手を挙げて現れた。


「兄ちゃんに言われて来たけど、もう殆ど終わってんのね」

「元々荷物そんなに多くなかったし」

「葵が引っ越さないと、こっちは引っ越して来れないんですよ。分かる?」

「分かってる」


小学校のときから変わらない関係。今は日本トップの国立大に行っているらしい。

あたしは、一人暮らしをすることにした。不動産屋で良い物件を見つけたので、引っ越すことになった。次に友人がここへ住むことになったらしい。

あたしの友人であり、金森の妹だけれど。


「金森って、クラブで会ったとき、あたしが自分の妹の友達だって知ってたのかな」

「さあね。でも、知らないで部屋使わせてたなら、かなり狂ってると思うけど。兄ちゃん狂ってるからなあ」

「良いとこでしょ、金森の」


段ボールにガムテープを貼る。友人はソファーに座ってテレビを点けた。

持ち出す荷物は殆どない。段ボールを持って玄関の方へ運ぶ。


「葵ー、携帯鳴ってるー。静河って……静河!?」


テーブルに放置したあたしの携帯がぶんぶんと振られていた。リビングに戻ってそれを受け取る。


「北原とより戻したの? 聞いてない!」

「あとで話す」


友人を宥める。

もしもし、と電話に出た。









忘れていた。この存在。


「本当に付き合ってるの? 居酒屋のバイトの子だよね」

「あーうん」

「真面目に聞いてるの!?」

「聞いてるって」


なんだこれ。何を見せられてるんだろう。

アイスコーヒーのストローを噛みながらそれを聞いていた。

清楚系が静河に噛み付いている。

なんでも、清楚系からの告白に付き合っている人がいると断ったら、相手は誰かという話になったらしい。それに呼び出されたわけだ。


「もー付き合っちゃえよ」

「は!?」

「あたし引っ越しの準備あるし、家電も揃えないといけないから忙しいんだけど」


アイスコーヒーを飲み干したので、立ち上がる。その手首を掴まれた。


「葵待って。それは全部後で付き合うから、今は助けて」

「だってお似合いだよ、優等生同士」

「貴方本当に北原のこと好きなの!?」

「えー……」


どうしてあたしが責められてるんだ。


「あんた達が付き合っても、静河はあたしが一番なんで。そこんとこ忘れないように」


じゃあ、とその場を離れる。

プラスチックカップをゴミ箱に捨てて、店を出た。大学にこんなカフェ入ってるなんてすごいな。

出口の方へ歩いていくと、後ろから静河の声がした。


「大丈夫なの?」

「何も言わずに出ていった……」

「静河さー、もしあたしと再会しないで、清楚系に告白されてたらどうした?」


不毛な問いかけをしてみた。少し、静河の困った顔が見たくて。


「断っては、なかったんじゃないかな」

「最低。あんたが今まで女に振られてきた理由はそれだ」

「ちょっと待って。その問いは意地が悪いと思う。だってその未来に葵は居ないんだろ」

「その後に現れる予定なんだよ、察して」

「先言ってよ……」


あ、困った顔をしている。

それが楽しくて笑っていると、ふと視線が合った。はあ、と溜め息が零される。


「敵わないと思ってる、葵には」

「はあ? 主に何が」

「全部」


あたしも同じだっつーの。








月蝕 END.


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月蝕 鯵哉 @fly_to_venus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ