第10話 未来の色

東京駅で俺の前に現れたユキジは、23歳の立派な社会人になっていた。

一流企業の名刺をもう一度見た。


「すごいな・・・」


あの青っぱなを垂らしていた、いかにもバカそうだったユキジが。


俺は震える声で尋ねた。


「大学はどこに行ったんだ?」


ユキジは言った。


「T大の理Ⅲだよ」


T大!、俺は目を見張った。国内最高峰の大学だ。

1つ下のユキジが、今、社会人ということは現役合格していることになる。

俺は、ユキジの肩をがっしりつかんだ。

香水なのかヘアワックスなのか、ユキジはすごくいい匂いがした。


「なあ、どうやって、T大に行ったんだよ、お前」


俺は、勉強方法を聞いたつもりだった。

しかし、ユキジはこう言ったのだ。


「あの村にいた頃、お供え物を食べたんだ。

 T大に行った人、順風満帆に成功して長生きした人、

 素敵な女性と出会って結婚した人、

 そういう人、いい血筋のお墓のお供え物を選んで、いっぱい食べたんだ」


えっ! ユキジの打ち明けた意外な秘密に、俺はのけぞった。

そして、まさかと思い当り、ユキジの形のいい耳に口をつけ、問い返した。


「いつも俺に、食べな、と勧めていたのも、その選ばれたお供え物なのか・・・?」


ユキジは頷いた。


「そうだよ。マトちゃんは一度も食べなかったけど」


俺は泣きそうになって、言った。


「違う、食べたんだ。一度だけ食べたんだ。

 昔、あの墓地の、上から2段目、左から5番目の墓の、お供え物のリンゴを

 食べたんだよ、俺。」


俺の悲壮な泣き声に、ユキジが申し訳なさそうに言った。


「あー、それは、デブで、歯周病で、あんまりお金がたまらなくて、

 変な女に人にばっかりモテるおじさんが眠っているお墓だと思う」


「そんなあ・・・」


俺は、ユキジの体にしがみついた。


そんな俺に、ユキジはダメ押しのように言った。


「言いにくいんだけど、マトちゃん、そのおじさんに会っているよ。

 二人であの、おっきなハチマキ石を掘り起こした日、マトちゃんがおんぶした、

 あの腐ったおじさんだよ」



東京でユキジと会ってから、さらに25年が過ぎた。

50代になったユキジは、例の一流企業で取締役社長になっている。

さて、俺の未来は―?

教えない。好きに想像してくれればいい。

そうそう、これは俺とユキジを巡る運命の話だったな。

ただ、一つだけ俺が言いたいのは

「母親を大事にするヤツには、バチなんか当たらない。

むしろ、当たってたまるかってことだ」

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ハチマキ石 真生麻稀哉(シンノウマキヤ) @shinnknow5

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