ハチマキ石
真生麻稀哉(シンノウマキヤ)
第1話 ユキジの白
その日、東京駅には雪が降っていた。まるで何かの弔いみたいに、凄絶に生々しく。
大雪のため電車は止まり、構内アナウンスが「運休のめどが立ちません」とひっきりなしに伝えている。
俺は入試のため、大学に向かうところだったが、運転復旧はどうやら期待できそうになかった。
5浪目の俺は、駅の外を舞う白いものをぼんやりとみつめ、これが弔い雪というなら、先の見えない俺の暗い未来を冷たく塗りこめて葬り去ってほしいと思っていた。
その時、「マトちゃん!」と不意に背後から声をかけられた。
振り向くと上質そうなスーツとコートを着た、一人の若い男が俺に近づいてくる。
白い歯を輝かせた男が言う。
「僕ダヨ!」
人なつっこい白目がちな垂れ目。さわやかでハンサムな青年だ。
その目に見覚えのある気がしたが、すぐには誰だかわからなかった。
「すみません、ちょっと思い出せないんですが」
俺が正直にそう言うと、男は、革の名刺入れから名刺を取り出した。
男の名刺には、誰でも知っているような一流企業の名前が印刷されていた。
システム管理なんとかという長ったらしい部署名を無視して、俺は男の名前を見た。
「内藤行次」(ないとうゆきつぐ)とある。
まさか! と俺は男の顔を見た。
男が言った。
「マトちゃん、僕、ユキジ ダヨ!」
俺はもう一度、男の顔を見た。
頭と育ちと人のよさそうな笑顔を浮かべた男の顔を。
そんなわけがない。
俺の知っているユキジはこんなヤツじゃなかった。
だって、ユキジは村の墓場に住み着く、汚い子ども。
気持ち悪い墓ガキだったはずだ
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