10. 定演の後
結局パート割りは、トロンボーンに1年生2人を入れることで決着した。
もう1人は、ユーフォニアムを希望していて枠がなかった伊勢原さんだった。
2人ともその年はコンクールに出なかったので、全体で見ればささいな事だったのかも知れない。
その後、ユーフォには自分の楽器を持っていた時田さんが入ってきた。
当時はトロンボーン・ユーフォで同じパートを組んでいて、これで3年生が合計4人だったから、入れ替わりとしては全然問題なかった。1つ言うならそのパートの2年生が1人だけだったこと、でもこれはパートリーダーの引き継ぎだけで、演奏面ではそのままの体制で56回生を迎えると誰もが思っていた。
当時のチューバには、1,2年生1人ずつがいて、その状態で3月の定期演奏会を終えた。
楽器運搬を終えて一息ついているところにやって来た溝渕さんの姿は今でもはっきりと覚えている。
演奏後というだけでは説明しきれないその疲れた雰囲気、失敗したか体調が悪いのか。両方の可能性を考えつつ質問してみた。
「お疲れ様。…大丈夫?」
「ちょっと無茶しすぎたかも知れないです」
「どうしてそんなに顔色悪くするまで…」
「あ、違うんです。演奏のことじゃなくて」
確かに、指揮台の上から目立った失敗は聞き取れなかった。
聞くと、年度末に引っ越すことを前から何となく言われてはいたけど、その日正式に決まったらしい。
演奏前に電話してたのはその事だったのか。
えらい秘密を抱えたな、と悩む間もなく、学年の金管の子にはもう話してきたと伝えられた。
楽器運搬もあったけど、ホールからの先発組の中には金管はほとんどいなかったから、おそらく楽屋かロビーで話してきたのだろう。手際の良さには驚かされるばかりだった。
もう1人、篠原くんについては、数日後の合奏前に彼から発表があった。
溝渕さんの件を指揮台で話した直後、何か低音パートの方から手が上がったと思ったら、彼だったのだ。
パートから言い忘れたことでもあったのかと呑気に考えていたら、すごいサプライズだった。
当然合奏後に問い詰めてみたけど、どこかはぐらかされるばかり。ただ、家の事情ということと、2人とも部活に悪い思いは抱いていないということだけが分かった。
あまりにも突然だったので、こちらからも、お元気でと伝えるほかなかった。
結局クラリネットでもう1人辞めた後輩がいたけど、バタバタしているうちに新年度になってしまった。
チューバ不在は流石にまずい。当時の部長・副部長・コンマス・後輩の指揮者を集めて話し合った結果、先輩からバストロンボーンを受け継いでパート内の低音専門になっていた海平くんに戻ってもらうことになった。
本人はすごく複雑な表情をしていた。同級生でいなくなったチューバ奏者の代わりに吹くのはこれで2度目だという。
「戻れるのは嬉しいけど理由が…」トロンボーンにも愛着が出てきたらしいけど、
どうにか説得することができた。
5月8日。56回生のパートを決める前日のことだった。
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