4. 巡り合わせ
年が明けて、自習室や街中への足が重くなった。先輩目当てで行っていたなんて思いたくはないのに、変なところで正直になってしまう。
ただ、部活の後輩や同級生には知られていないのが幸いだった。
何かあったらホルンの音に出やすいのは自覚してたけど、この時は不思議といつも通りの音色で、むしろ合奏に集中していると心配事を忘れられた。
中野先輩と次に会ったのは、いや会ってしまったのは、県吹奏楽連盟主催のニューイヤーコンサートが終わってしばらくした、2月中旬のことだった。
3月末にある定期演奏会について、照明担当のホールスタッフとの打ち合わせがまだだとか、譜読みし終わったコンクールの課題曲も指が回らないとか、そんな考えが頭に浮かんでは消え。
ボーッっとしていたところに割り込む声は、遠くからでも確実に私の心をとらえていた。
中野せn…
出かかった声は喉に引っかかって消えた。ダメだ、今話すと確実に私の中で先輩は悪者になる。考えている内に先輩は追いついてきた。
仕方がないので、前の年に先輩方と私たちでやった定演の照明はどうしてたか、アナウンスはいつ頃誰に頼んでたか、といった疑問をその場で思い付く限りぶつけてみた。すると先輩はまるでパートの後輩に接するように、すらすらと答えてくれた。
さすが元副部長。
この時は、話している内に感情の波が収まったように錯覚してた。
次の土曜日、顧問の先生の都合で合奏がなくなって、部活が早く終わることになった。ただ、家族はみんな、私が部活に行ってる前提で出かけてたらしい。
元々塾に行く予定だったからいいけどさ、なんて思いながらマキノ駅の方向に行くことにした。
駅を通り越して、琵琶湖を見ながら散歩することにした。
近くで誰かが自転車を止めたのを見たとき、初めはよくある話だったから気にもしてなかったけど、その人に近づくと気にせざるを得なかった。
その人は見覚えがあるどころじゃなかった。間違えようもない、先輩の背中。
私が出した声は小さかったけど、風が静かだったから、しっかり届いてたらしい。
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