マキノからの風
某チャリ野郎
マキノにて
1.びわ湖花火大会
マキノに比べて北咲は暖かいなあ。
タンスに増えた半袖のワンピースを見ながら考えた。
おばあちゃんからお下がりでもらったカーディガンが嫌いなわけじゃない。
ただ、引っ越しで荷物になるし、南に行くからあまり使わないでしょう。
使うとしても次の冬まで様子見させて。
表向きはそう言い残して、かさばる衣類は置いてきてある。
次にマキノに戻るときは、また着られるといいな、おばあちゃんの。
胸に入れたT.M.のイニシャルが色あせるまで、これは手放したくないし、手放せない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私のいたマキノ中の吹奏楽部では、コンクール後に花火大会に行くという伝統があった。
2年生の時は県大会銀賞で終わり、その余韻も冷めていざ、びわ湖花火大会当日。
女子の浴衣姿に毎年通りキャッキャと言い合い、焼きそばやかき氷を各自手にして道を歩く。そして、手をつないでいても人ははぐれてしまうもので、私は何となく人の流れを頼りに大津駅まで歩いていた。
駅まであと信号1つ。明かりを見て安心していると、腕を強い力で引っ張られた。
倒れるのをこらえつつそちらを見ると、同じ部活の打楽器だった中野先輩がいた。話を聞くと、携帯を家に忘れてきたらしい。
男子でパート違いの先輩とは、今を逃すと一生話す機会がないかも知れない。
大げさな考えを持ちながら、一緒に他の人を探すことにして、ひとまず駅を越えてコンビニまで行くことにした。
コンビニは混んでいたけど、トランペットの秋帆先輩の鮮やかな花柄の浴衣をすぐに見つけられた。他の人は先に電車に乗るなり、親が迎えに来るなりでもう帰ったらしい。
もう少しみんな、特にコンクールで引退した先輩方と話したかったな、なんて思いながら、3人で帰りの電車に乗り込んだ。
堅田駅で降りる先輩方を見送った後、私はその2人がカップルだという噂について考えていた。
「お邪魔だったかな」この時はまだそう考えるだけの余地、分別があったのは、今思うともはや笑えてくる。
マキノ駅に着くと、先に行ったはずの、同じパートの里実や恵梨香たちと同じ電車だったことが分かった。乗り換えの関係で結局同じ電車になるのは、大津駅で時刻表でも見て気付くべきだったか。
「真里亜、さっきの電車にいたでしょ」
「恵梨香、気付いてたの?なら話しかけてくれば良かったのに」
「先輩たちと楽しそうに話してたからさ、それより先輩たちって何かカップルみたいじゃない?」
「どうかな…あんまりそういうの、考えたことないな」
先輩方が付き合っているという噂はどこかから聞いていた。いかにもありがちな話で聞き流したかったけど、秋帆先輩は小学校から仲良くしてくれていたから、興味が全くないわけじゃない。
でもいざその事を話しかけられてみると、結論なんてとても出せないまま、この日はお開きとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます