2.夏が明けて
中野先輩との意外な再会は、夏休み明けの塾だった。
その日も里実と一緒に勉強していたけど、彼女は午前中で帰ってしまい、思いがけず1人で昼食を取っていた私に先輩が話しかけてきた。聞くと、高校受験はもう終わり、今は苦手な国語の補習を受けているのだという。
その日は講師の都合で午後の補習がなくなったらしく、私は先輩に苦手な数学を教えてもらうことにした。
中野先輩とは、その日を境に会う事が少しずつ増えた。
元々音楽面での関わりがなかったわけではない。コンクール前には課題曲のマーチで一緒にセクション練習をしたりしていたし、ホルン・打楽器はパートリーダーどうしの仲が良かったので、自然と顔を合わす機会も多かった。
ただ、プライベートで会うことはあまりなくて、せいぜい下校の方向が途中まで同じだったとか、休日にスーパーで会うとか、些細なことばかりだった。
プライベートでの会話の内容は、最初の方は塾の空き時間だけで教わりきれない数学や、逆に私が得意な国語を聞かれたりするのがほとんどだったけど、そのうち、塾よりもこっちで会う方が多くなって、いつの間にか部活の思い出話が多くなった。
小学校こそ違うけど、隣どうしの校区だったので共通の話題は自然と多くできる。
ただ、会う回数が増えるたびに、心のどこかにわだかまりができていった。
秋帆先輩とは学校の廊下であうたびにどちらからともなく話しかける日々が続いていて、周りからは何ともないように見えていたらしい。でも私か、それとも先輩か……どちらからともなく声をかける回数や、会う頻度自体が少なくなっていって、ついには1週間まるまる顔を合わさないことも珍しくなくなってしまった。
その時はまだ「先輩は受験に向けていっぱい勉強しているな」程度にしか考えていなかったのは、今考えると本当に愚かだったというべきだろう。
12月に差し掛かろうとしているある日の午後、部活を終えた私は、いつものように下校しようとした。
すると職員室から出てくる秋帆先輩と鉢合わせた。先輩は笑顔を返してくれたけど、明らかに顔がこわばっている。私立高校の入試に落ちたらしい。
何と言葉をかけるべきか迷っていると、先輩から喫茶ケントに誘われ、そこでゆっくり話がしたいと言われた。すぐにでも行きたかったけど、制服での寄り道は禁止なので一旦先輩と別れて、里実・恵梨香と一緒に下校した後、改めて喫茶ケントでゆっくり話すことにした。
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