3. 噂と約束
秋帆先輩からまず切り出されたのは、私が中野先輩に告白しようとしているんじゃないかということだった。
まだ実行には移してなかったけどそう思ってた。これを言い当てられて動揺したけど、当たったと知った先輩はもっと動揺しただろう。少なくない怒りもあったんじゃないかと思う。
だけど、それを抑えて会話する先輩は本当に大人だった。
きっかけは、中野先輩から来る連絡が急に少なくなったことらしい。
自習室には当然、共通の知り合いも多くいる。それに私達が話している間、こっそり近くまで来てたこともあったようだ。自習室以外にも、街中で会っているところを偶然見かけたこともあるらしい。
花火大会の日に里実たちとしていた話題が頭の中で駆け巡った。まさかこんな形で答え合わせなんて…
喉に引っかかるコーヒーを何とか飲み込んで、店を出た。
雪が降っていたけど、晴れてたとしても会話は少なかっただろう。
先輩が目の前にいる内に、私は震える指で、中野先輩の連絡先を携帯から消した。
時間が気持ちを落ち着けてくれるはず、なんて考えながら。
ただいまと言った直後の暗い顔は、先輩の結果を聞いたからということでごまかして、私はしばらく部屋で泣いていた。お母さんが淹れてくれた紅茶も、味がしなかったけど、喫茶ケントで飲んだコーヒーよりはあったかくて、少し救われた気がした。
その週末、土曜日に中野先輩と会う約束を1回すっぽかしたことになったけど、当の中野先輩はしれっとした顔で、夏明けのようにふらっと日曜日の自習室に現れた。すっぽかした理由は風邪だったとごまかしてはみても、疲れてるとか病み上がりだけじゃごまかしきれない作り笑いの硬さ、しばらく前の秋帆先輩についてどうのこうの言える状態じゃなかった。
仕方なく、前から風邪を引きやすかったけど、今までは熱も軽いもので済んでいた、なんて言い訳をして、何とか納得してもらった。
その日は、中野先輩と毎週末に会い続けることはできないということだけを伝えて、お開きになった。
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