6. 卒業式
卒業式当日は、朝から寒かった。
チューバ奏者なんかは楽器を抱きかかえるようにして温めてたけど、あんまり効果はないらしく、チューニングの合間に吹いてないときでも楽器に息を通しっぱなしだった。
その日は制服の中にカーディガンを着てる人が多くて、暖房の効いた音楽室では、上着を脱いだカラフルな集団が朝早くから合奏してた。
吹奏楽部は朝の教室での点呼なし。
その分練習してきれいな演奏を、というのは毎回ありがたいけど、本番中にも冷える体育館では朝練の成果を十分に活かしきれない。その点だけが心残りだった。
リハ―サルを終えるその時に「まだ吹いていたい」という空気が流れ、出口に近く大柄なチューバ奏者が動くことで全体もそれに従う。いつもながらよくできた流れだよな、と、演奏前に本来挟むべきでないような考えが舞いこんでくる。
結論から言うと、その時の本番は思わしくなかった。
生徒数が全校で150名程度なので、1学年の人数は当然50人を大きく上回らない。
だから卒業生の入場がスローペースになり、1人1人がしっかり見えてしまう。
特に小学校から仲良くしてもらっていた先輩の中には、高校から他の府県に行く人もおり、音色が悲しさで震えないようにするのに精一杯だった。
校歌を吹いたときには、練習でうまく吹けてたはずのHighCがうまく出なかった。
そのあたり、五線を超えるあたりの高音域が出てくると、いつも似たり寄ったりの反省をしてしまうことになる。
式が終わって、卒業生と一緒に音楽室に集まって、引退式をやった。
秋帆先輩が部長で、中野先輩が副部長だったのももう半年以上前の話か…
そんな考えがよぎったけど、懐かしさよりもどこか現実離れした感じの方が勝ってた。
引退式も終わって、なかなかみんな自分から帰るとは言い出さないわちゃわちゃした時間に、いつかと同じように秋帆先輩から声をかけられた。今度は、元部長として一言残したからか、そのときのハキハキした感じが残ってた。
私は、先輩との別れの余韻を、もう一度味わうことにした。
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