北咲にて
8. パート決め
北咲がマキノに比べて暖かい理由。
気温ももちろんそうだけど、何より人の心が暖かい。県を2つ以上越してきた私を、みんなは快く迎え入れてくれた。
ここに来て変わったこと、それは楽器を吹くだけじゃなくて、指揮台に立つようになったこと。
私たち54回生から学生指揮者の制度ができて、その初めてに選ばれた。中学のとき、文化祭で合唱コンクールの指揮者をやった事はあったけど、まさかそれを根拠に
手を上げたら、満場一致で推薦してもらえるなんて。
ホルンの先輩方5人に話をしに行った時も、
「真里亜ちゃんなら練習と両立できる」
「真里亜の指揮で吹きたい」
などなど、市内でも上位校出身の面々から期待してもらってるのが伝わってきた。
何より、誰よりも個人個人の音をよく知っている顧問の先生や、たまに合奏中の一部パート合わせやセクション練で一緒に吹いている他パートの人からも、背中を押してもらえたのは大きくて。
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指揮者として最初の仕事は、入部してきた後輩のパート決めだった。
幸いどの楽器もほぼ均等に分かれてくれた。強いて言うならファゴットだった子を、学校にファゴットがないからという理由で、仮入部のときにきれいな音を出せていたトランペットに割り振ったぐらいで。
4月の最終週、その時まで希望がなかったチューバに、1人枠が空いていたところ2人希望者がいて。
珍しいパターンだった。普通は花形のトランペットやサックスに集中して、最終的に自分の楽器を持っているかどうかで決めたりするけど、私たち54回生で打楽器経験者がいなかったからトランペット希望者が1人打楽器に移ったような流れは、その時入ってきた1つ下の学年、55回生にはなかった。
希望者のうち海平忍くんは、すでにこの吹部の中にお兄さんがいる。しかも仮入部中も、入るか迷うと言いながら何度も吹きにきていた。中学校時代は、他の楽器から始めて人数不足でチューバに行ったらしい。
もう1人、溝渕萌香さんは、体格でチューバに選ばれたという、運動部にいてもおかしくはないすらっとした子だった。中学で同じパートだった友達に聞く限り、その子は1年生で先輩からコンクールのソロをもらう程度にはうまかったらしい。
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