いい女!というものをナイフで突き刺すように魅せてくる


 近未来を舞台に、戦闘用生体義肢を移植された女工作員が活躍する、スタイリッシュなバトル・アクション巨編。

 とても女性が書いているとは思えない硬質でクールな文体。にも拘わらず、癖がなく読みやすい本文。なかなかの長編なんで、読み終えるまでに時間がかかるかな?と思ったが、本編がスタートしたら、もうノンストップ。
 簡単そうに見えて難しい、クールな女性主人公のバトル・アクションが、緩急とりまぜて読者を翻弄する。

 まず主人公の女工作員キッカのキャラクターがいい。クールで、ハードで、美人で、強くて、でも女なのだ。この、ちらりと見せる女っぽさが、ぐっとくる。

 そして、物語の展開もいい。アクション物は、映画でもコミックでも小説でも、アクション・シーンがえんえん続くと誰でも飽きてくる。が、本作はバトル、アクション、ドラマ、謎解き、出会い、エロス、大食いと緩急取り交た手練手管で、読者を攻め立てる。
 そのさまは、まるで、時に甘い言葉を耳元で囁き、その舌の根も乾かぬうちに裏切ってくる凄腕女スパイを相手にしているようだ。

 当然、主人公がいい女なら、周囲に集まってくる野郎どもも、ひと味ちがう男ばかり。
 ちょっとどんな男たちかは、ストーリーの展開に触れることになるので説明を割愛させていただくが、とにかく無駄なキャラが一人もいない。

 また、バイプレイヤーたる女たちにも注目してもらいたい。大活躍!はしないのだが、それが少女であったり天使であったり、あるいは悪魔であったり。主人公キッカとは好対照をなして彼女をとりまき、その相関図はまるで見事な花時計のようだ。


 本作は、精密なプロットで構成されたクライムノベルという感じではないのだが、とにかくここは頭を空っぽにして、ド派手に戦い、可愛く食べる女主人公キッカの活躍をご堪能いただきたい。


 そして、さらに付録の番外編!

 追加と侮るなかれ。この番外編を読了せずして、本作は語れない。この番外編こそが、この物語の最終章であるのだから。

 とくに最後の短編。これは、この物語の冒頭に目覚めたケイイチの物語なのだ。
 彼が目覚めることによって、走り出したこの物語は、彼の短編によって幕を閉じる。そしてその短編の中に、ちらりと顔を見せるキッカの姿、その役割。
 ああ、やっぱキッカも(ここで大抵の男性読者は思うのではないか? キッカも、と)素敵だなぁ。

 いい女、いや、いい女たちというものをナイフで突き刺すように魅せてくる本作。そして、それを取り巻く渋い男たち(ぼくはマスターが結構好きかな)。最後まで読み切らせていただまきした。

 そして思いました。

 ここまでひとつの物語をきっちりと書き切れた作者を、ぼくは正直羨ましいと思う、と。




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