エモ×ミス エモーショナルなミステリー

またしても、である。この作者に、してやられたのは。
現代ドラマのカテゴリーだか、私はあえてエモーショナルなミステリーと解釈したい。

ここに登場する俺と僕と彼女と。そして天才的ピアニスト。
運命の糸が、一枚の写真で作られたポストカードに集約する。

ただ、そこはこの作者。一筋縄ではいかない。
社会風刺や恋愛や家族愛や友情を織り交ぜながら、散りばめた想いを、流れるように滑らかに集めていく。

一人ひとりの登場人物の置かれた環境と語る言葉。
その中にはとても深刻で辛い状況もあるが、しかし切なさの上に柔らかなベールをかけられたような感覚を覚える。

ゲーム。写真。そして神話。
散りばめられたモチーフが、現実とは少し距離を置いた、俯瞰から物事を映しとったものだからだろうか。

ひたすらに祈ること。手を差し出すこと。慈しみを捧げること。
集約した運命の糸は再び解きほぐされて、やがて祈りが奏でられるのでしょう。
想うことは祈ることなのでしょう。

抒情性を持った極上のミステリー。
あなたにも、春の夢を見る枝を覗き見てもらいたい。

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