君との時間と、君の「声」、確かに受け取ったよ。

 切なく淡い男女の恋愛未満の揺れ動く関係性を描いた作品。
 転校した主人公は、駅のホームで電車に飛び込もうとした少女を助ける。その少女は、転校先のクラスメイトで、しかも隣の席だった。ここまでは転校モノによくある展開かもしれない。しかし、この物語はここからの展開が切なく、感動的だ。
 実は少女は事件の被害者であり、この経験から声を出すことが出来ずにいた。しかも、事件のトラウマで、家族ともうまくやっていけない。その少女の悲しさ、苦しさ、悔しさが、心に刺さる。そして少女は死を願っていた。
 しかし、主人公と少女は、筆談を重ねることで、けして交わることがなかった関係性を築いていく。それは優しく、丁寧で、ゆっくりと進む、筆談であり、少女が事件以来一人で抱えてきた「言葉」の解放であった。筆談はやがて、交換日記へと進展する。
 主人公は先生からも「友達になってくれ」と頼まれていたが、例えそんな依頼がなくても二人は関係を構築していっただろう。
 この世界からいなくなりたい少女を、主人公は何とか引き留めようとする。果たして、少女は……? 少女と主人公の関係は……?
 
 是非、ご一読ください。

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