23:56-00:19

「眠れないの?」

 きみはさっきまで寝息をたてていたとは思えないほど冴えた声をわたしの背中に投げた。わたしは布団から抜け出して、きみのアパートの古い畳に座っている。カーテンのすきまから明るい夜が漏れ出てわたしのからだに薄く光の線をひいていた。

 わたしはきみの言葉に答えずに、畳のうえを這わせるようにして後ろへ手を伸ばす。布団のふちに届くより先にきみの手が迎えにきてくれた。

 熱い手を握る。夜があければ働きにゆくきみの睡眠を邪魔したくはなかった。

「ひとりにされたら眠れないよ」

 きみが言う。手をひかれた。されるがままに、わたしは腕をとられて布団に戻る。きみの熱がたくわえられて、そこはおおきな生きもののおなかのしたのようだった。きみの足がわたしのふくらはぎをなぞって、つめたい、というぼやきがあとに続いた。

 わたしはすこし笑った。ごめんね、ときみの耳にくちびるをつけてささやく。

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croquis 夏野けい @ginkgoBiloba

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