「白い髪」への畏敬と恋慕

(他の作者・読者の方へ。身内なのでサービスして多めに書いてます。身内びいきです。)

まずは、企画への参加に感謝を述べる。

さっくりと「改善案の提案」から入らせていただく。

こちらの理解では、次のような作品を受け止めた。
――「白い髪」を、ある空間における異質さとし、それでなお輝く超然性を描いている。――
一人称を用い、語り手の素直な感動を伝えている。
「高踏な存在に引け目を感じつつも、なお惹かれる自意識」を描くにはちょうど良い形式であると思われる。
一人称文であるからこそ、最後の一文、「つまり、何が言いたいかと言うと、僕は彼女が好きなんだ。」に不可思議な力強さが生まれていると思う。
「白い髪」で「脱俗」というと、自分は『艦隊これくしょん』の「響」や、『fate stay/night』の「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」を連想する。
白は柔らかい色であると同時に、「何物でもない」あやうさを兼ねる色だ。

なお、読み進める前提として、自分はこの物語をこのような期待も下に読んでいたのを明示しておく。
「『白い髪』を通した、『倒錯』的恋慕がこの話の主題なのだろうな。」

以下、添削したさいに感じた改善点を挙げてみる。
1.文章の長さ、読点の多様
2.「髪」を「説明的表現」以外で引き立てる描写が少ない



1.文章の長さ、読点の多様

文章の改善点として、「小さい topic に分けた短文化」「!や?マークの使用による感情の明確化」「因果関係の整理」などを指摘しておきたい。
ただし、「!」「?」の使用については、文章の雰囲気と要相談。

・・・・・
例えば冒頭文。
――
彼女は髪が白かった。
そういう病気なのか、それともファッションなのか?
彼女と話した事が無いから僕には分からない。
だけれど、とにかく彼女は髪が白かった。
――
私が書くならばこうする。
理由は主に「小 topic に分けた短文化」・「!や?マークの使用による感情の明確化」である。
ここで扱われているのは、「白髪の理由への疑問」と「彼女の髪は白い」という2つの topic である。

このお話しで焦点が当たっているのは「彼女」であり、「彼女の白い髪」であるから、これは繰り返して印象付けたい。
そして、おそらく「僕」が「彼女」に興味をもった理由は、「白髪への違和感」であるはずだから、その切っ掛けもしっかり提示したい。
400字程度という字数制限もあるから、情報は惜しまずに、かつ簡単に画く。

まず、冒頭の「その人」を「彼女」に変更。文章構成のリフレイン(同文による挟み撃ち)を行い、この文章の主役を印象付ける。

それから、「彼女の髪が白い理由(推定)」と「僕と彼女の没交渉」の情報を区切り、「理由(推定)」のほうは?を用いて、心内表現的に纏める。
「『僕』と彼女は交流がない」ことを次にもってきて、僕と彼女の距離を明示する。

ここまでの話を纏める。
物語前提として強調したい topic は以下の3つ。
「彼女の髪は白くて美しい」
「彼女の超俗性」
「僕から彼女への【一方的】畏怖と恋慕」
冒頭文の構成は、これらへの "Expectation of Extent(期待の範囲、展開の予知)"を設定するようになされるべきだろう。
ゆえに、「彼女は髪が白かった」を反復し、第三文目で「一方的」な面を強調した。
これらの要素を明確にするために、文章を短略化、および句点の利用を行った。
ちなみに、より万全を期すならば、題名を変更してもよいかもしれない。
『白い髪の彼女』や『彼女の白い髪』など。


・・・・・
「因果関係の整理」については、第4段落。
――
これだけ奇異な存在は、イジメや排除を喰らうのが自然だろう。
しかし、彼女はそんな目には遭わなかった。
彼女の髪は、そうした悪意を圧倒するくらいに美しかった。
それに加えて、彼女の態度には超然とした雰囲気があったのだ。
――

原文で扱われている topic は「彼女が排斥に遭わないこと」と「その理由」である。
「髪の美しさ」と「超然とした雰囲気」が因。
「悪意を圧倒している」が果。
これを明確にすると、文章の接続が滑らかになる。

次のように因果を書く順序を逆転させてもいい。
――
彼女の髪は、やはり白くて美しい。
しかも、その態度は、それに見合うように超然としている。
だから、彼女はイジメや排除に遭わない。
――
案外、こっちのほうが「視界の隅に彼女を捉えたと同時に、……」以下の内容(「目を奪われる」という周囲の反応)への接続に良いかもしれない。

纏めると、因果関係を整理し、文章同士の接続を流暢にして、内容を理解させやすくてインパクトのあるものにするのがよい。
ゆえに、主題である「髪の白さ」、および「超然とした態度」をしっかりと他の文から区別するべき。



2.「髪」を「説明的表現」以外で引き立てる描写が少ない

・・・・・

この文章で、「白い髪」についての情報がどのくらい出てきただろうか。整理してみる。
――
(第2段落)
でも、それは色素が抜け落ちたような弱々しい無色では無くて、「白」という色で染められたような強さで、それでいて人工的な不自然さの無い物だった。
――
(第3段落)
彼女は、それを隠すでも無く背中までその髪を伸ばし、そして一歩踏み出す度揺らしている。
――
「白の持つ強さ」「背中まで伸びた長髪」が主な描写だろう。
第2段落については、前述の「短文化」で文章を痩せさせるべきだが、「彼女の髪の白色」の持つ純粋さがよく表現されている。
第3段落については、「一歩踏み出す度揺らしている」が動的な情景を想起させ、美しさや「超然」の表現にも見合うものだ。

しかし、タイトルにも含まれているこの主題は、話の後半では全く出てこなくなる。
後半の話の流れは「周囲の反応、『怖れ』→『僕』だけが彼女に抱く、一方的恋慕」となり、彼女の描写がほぼ削られてしまう。
主題の一つである「僕から彼女への【一方的】畏怖と恋慕」を書くパートなのだから当然だが、「髪」への言及も残すとなおよいだろう。

・・・・・

描写が「僕」の自意識混じりの判断なのは良い判断である。
しかし、女性の髪は生き物だから、もう少し生命力にあふれる表現を用いてもいいかもしれない。
(これは、「一人称」という「語り手の知性・雰囲気」という問題と重なるので、一概にこうすればいい、とは言い切れないのだが)

一番やりやすいのは、比喩を使うことだろう。同時に、その比喩が過剰になりすぎないように注意することだろう。
具体的なやり方として、白いものをもっと連想してあげてみるべきだろう。
月並みな比喩だが、「雪」「クリーム」「和紙」「シロツメクサ」「素麺」「兎」「蚕」……。
これらの連想と「彼女の白い髪」をリンクさせ、「連想」によって世界を押し広げると、わずか数百字でも深みのある物語になる。

或いは、第3段落の「髪の動き」を拡充し、動画的なイメージの広がりを持たせる方法がある。
「振り子」に喩えるとか、「彼女」が「髪に手櫛をかける場面」を描写するとか。

題名が「白い髪」についてなので、今回の添削では「白い髪」の描写を改善する方向で話を進めた。
もしも、もっと別の方法で「彼女」の人物像をより深めるつもりならば、「超然とした態度」について描写を増やすといい。
また、「制約がないならば」、容姿・仕草・服装などを具体的にし、より輪郭をはっきりさせるのもいい。

・・・・・

「制約がないならば」と書いた。
この物語の最大の問題点は、「僕」の視点のブレである。
この問題は第7段落の次の一文が全てである。
――
当然だ。あんなキレイな子なんだもの。
――
ここでいう「キレイ」とは、容姿も含まれているのか。
もしも含まれているならば好ましくない「逸脱」である。なぜならば、ここまでに容姿に関する描写はない(と見た限り思う)からである。
読者にしてみると、物語の終局部でいきなり新情報(しかも全く詳しい説明も描写もないもの)が提示される。
読者が「僕」を通じて行っていた「彼女」への価値判断の焦点が、いきなり逸らされることになるのだ。
いままでの話において、提示されている価値判断の論点は次の2つ。「白い髪」と「超然とした態度」である。
読者はこれをもとに彼女の醜美・嫌好を判断するし、一部のひとたちは、「これは白い髪に倒錯的な色香を感じた人物の物語なのだな」と感じているかもしれない(自分は「倒錯」をこの話の主題だと思っていた人物の一人である)。
この「キレイ」がなにを指しての言葉なのか、はっきりしておくのは悪くないだろう。


総括として。
・句点と読点のバランスに気を配ると文章が読み込みやすくなる。
・単純な説明的描写だけでなく、「連想によってイメージを広範化する描写」を入れる。
書きたいことや「彼女」の超越的な麗しさは理解したつもりだ。
だから今後は、「なにを書くべきか・書きたいか」を整理して、再構成する時間を確保してほしい。

執筆お疲れさまでした。