今までとは違う新しい自分。それが本当に意味するは……。
- ★★★ Excellent!!!
34年間生きてきて、友達もおらず、まともに社会性を築くこともできなかった主人公。ついに精神を病み始め、病院で入院することになるがそこで彼は医者からある薬の治験を勧められる。その薬を飲めばネガティブな性格を変えることができるという。薬の服用後、徐々に主人公の性格は改善されていき、職場に復帰する頃には同僚とも快活に話せるようになり、長年抱えてきたコンプレックスも克服し、やがて彼女もできる。しかし本人の自覚のないところでもっと大きな変化が起き始め……。
冴えない日常を送る主人公が病んでいく様子のディテールがとにかくリアルで読んでいるこちらまで憂鬱な気持ちになって引きずり落とされる劇薬のような作品。主人公がお前と呼びかけられる少し珍しい二人称形式で物語が進むのだが、途中で明らかになる語り手の正体にはゾッとさせられる。冒頭から主人公に浴びせられる冷酷な言葉の数々もちゃんと意味があるとわかるから恐ろしいという極上のサイコホラーだ。
また余談ではありますが、この小説を読んでからしばらくは爪切りを直視できなくなりました……。
(「悪い人たちの物語」4選/文=柿崎 憲)