面白い

書き表されている内容の好悪と面白さは関係がない、その概念を体現したかのような話です。道行く片っ端から口に突っ込んでおすすめしたいが、それをするのがはばかられるという全く希有な作品です。向こうから語りかけてくる形の文章なので特段難解な部分もなくするすると読めてしまうのですが、するすると入ってくるのがどろどろとした『嫌さ』みたいなものなので次々いやな気持ちになります。そのほとんどが『理解できる』『身に覚えがある』類いの嫌さなのでめっちゃ嫌になります。しかし面白い。

ストーリーは『居場所のなかった主人公が居場所を見つけるまでとそれから』が投薬を絡めて繰り返し描かれており、ほしかったものを手にしたり、奪われたり、救いを見つけたり、またそれを失ったりということが行われます。この光と闇の間で揺れては戻る一進一退が、この先どうなるのだろうとスクロールする手を進めさせます。ストーリーの先が気になって一気に読んでしまいました。前述のことから個人的に描写がきついのは導入に当たる最序盤で、あとはつらいのとまあまあしんどいのが波状になってくる感じでした。

この話は緻密です。解像度が異様なまでに高いです。もしくは、『これは自分の話だ』と思わせる力が強いです。生きていることに対して後ろ暗い気持ちを抱えたことがある人には実体験として『わかる』部分があると思います。読んでいる途中、何度か吐きそうになりました。夜食を食べていたら実際に吐いていたかもしれません。それくらいの実感を伴った痛みをもたらします。しばらくカップラーメンもチーズも食べられそうにないです。あと緻密と言えばもう一つ、二人称さんが『おまえのことはわかっているよ』というように口をきく描写の出来が非常に良いです。

それはそれとして、論理性と(ある種の)正義感のあるタイプの狂人の醸し出す可愛げのマニアの人にもおすすめです。少し読み進めると出てきます。表面上好きになる要素がほとんどないのにあなたもきっと好きになる。これは運命なのではないか? 運命です。フェイタル、もしくはドゥームのほうです。逃れ得ぬ破滅。人間が破滅に突き進む様って美しいと思いませんか? そうして身に持つ因果の糸が引かれたとき、一等強く光るのです。私はそこに光を見ました。目もくらむほどの強い光です。作中では否定されていますが。私は見ました。私は。

そこはあなたにも見てほしいと思います。三回くらい光ります。光っていました。そこには光が。おすすめです。

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