まず全ての前提としてめちゃくちゃ面白いです。
記憶を取り戻した主人公は合理性を重んじる土地パルティトゥーラで暮らすことになるのですが、ここでは転生者の存在がごくありふれたものであり、主人公もお役所手続き的に『社会身分:転生者(新人)』としてスタートを切ります。
お話の肝であるラブの部分はそのとき縁のあった方と……という流れなのですが(気持ちに気づいていく過程が情緒的で大変にGOODです)、ここは最大のお楽しみ部分なので委細は伏せます。浴びてください。物語を。
ここではもう一つのコアである異世界部分の話をします。パルティトゥーラの環境や社会がラブの部分に深く噛み込んでいて、その二つが両輪で火力を出してくるんですね。転生したばかりの何もわからない状態から社会、ひいては何も知らなかった相手のことを知っていき、答えを見つける……という構造から、読者も主人公を通して未知の世界のことがわかっていくという流れが非常に心地よい。背景の複雑さを感じさせない読みやすさがあり、親切な設計です。
お気に入りの異世界描写は、転生者がままいるために現代日本にある概念がローカライズを経て定着していること(異世界なのに電車がある!)、土地の特性によりローカライズ具合が強めなところです。あとは言語まわりですね。現代日本と共通の語彙があるうえで、社会制度や環境の違いから指し示している実態にズレが出るのが、異国情緒という風情で大層良いです(例:夜の外出)。
剣と魔法『ではない』異世界が読みたい方におすすめです。(剣と魔法は出てきません)