第2話 BAR SHARK

新宿の裏通りに面した雑居ビルの地下一階。


暗くて細い階段を下りるとそこに『BAR SHARK』があった。


ビルの前の通りは週末でも人通りは少なく、街の雰囲気も良くない。路上にはゴミ散乱し、終始カラスがゴミをつついている始末。


薄汚いこの裏路地は、おせじにも治安がいい場所とは言えなかった。



その一方、店内はどうかと言うと、意外と綺麗。ビルの外見とのギャップが激しい。


カウンター五席と四人掛けテーブル三個とこじんまりしてはいるが、どこか落ち着く雰囲気がある。


バーカウンターの後ろにはボトルが綺麗に並び、それらを収納している棚の上には、水色の下地にエメラルドグリーンの文字で『BAR SHARK』と書かれた看板が掛けられていた。


店の隅に置かれている古臭いジュークボックスからは終始六十年代のオールディーズが流れ続け、まるで五十年前にタイムスリップしたような錯覚に囚われる。



ちょうど九時を過ぎた頃だろうか......


店内には二十代そこそこのバーテンダーと、それよりちょっとだけ年上と思われる女性がカウンターの一番奥に座っているだけで、他に人は見当たらない。のパーツが少し日本人と違う。


身長は百八十センチ程、ひょろ長く見える。モデル体型と言うには少し貧弱すぎるかも。


そして彫の深い顔に細く切れ長の目......幼少時代彼に『キツネ』とあだ名を付けたガキ大将は中々センスがいい。


このバーテンダー名前はポールという。どこか日本語のイントネーションがおかしい。


それもそのはず、日本に来てからまだ一年と経っていなかった。



「エマサン」


「......」


「エマサンってば!」


「ん?」


「ん? じゃないデスヨ。もしかして寝てマシタ?」


「寝てないよ。目開けてただろ」


「目アケテ寝てる人ッテ結構いまセン? 見た目怖いんデスケド」


「どうせあたしは怖いですよ。で、なんか用か?」


「別に用ッテ訳でもないんデスケド......最近何かトホウニ暮れてるってイウカ、無気力ってイウカ。いつものエマサンらしくない気シテ......」


「ふ~ん。気になるの? もしかしてあたしに惚れてる?」


「チョ、チョットいきなり何て事言うんデスカ? 別にホレテなくは無いですが......


ホレテルとかでは無くてソノ......アッ、エマサン! シーフードサラダ全然食べてナイじゃないデスカ!」



カウンターの上には半分飲みかけのカクテルと、全く手が付けられていないシーフードサラダが無造作に置かれている。


さっきからずっとこの景色だ。早く食べてよと、サラダが訴えているようにも見える。



「ん? このシーフードサラダ、エビ入ってるじゃんか。あたしはエビアレルギーなんだよ。この間言っただろ。忘れたのかポチ!」


「そう言えばソンナ事言ってましたッケ? チナミニ僕はポチでは無くて、一流バーテンダーのポールです」


「ポチ?」


「ポールデス」


「ポン?」


「わざと間違わないでクダサイ。ポールです」


「そんなのどっちでもいいわ」



バーテンダーとそんなたわいの無い会話を楽しんでいるカウンターの女性......


この女性こそが、この若さにして『BAR SHARK』のオーナーであり、『EMA探偵事務所』の代表。そしてこの物語の主人公。


生涯天命尽きるまで戦い続けた女。『EMA』だった。


後に『GOD EMA』......神のEMAと呼ばれるようになるとは、この時点で誰が想像したであろう。



本名 柊恵摩(ひいらぎえま)


年齢二十四歳


身長百六十センチ


髪の毛の色はライトブラウン


ショートヘアーが非常に良く似合う。


目は大きく、くっきりとした二重。


鼻筋の通った顔立ちは誰からも好感を得る。


耳にはクロスのピアス。


右手の薬指にはクロムハーツのリングが輝いている。


顔立ちは一見すると派手とも言えるが、その装いは実に地味であった。上下黒のスーツに白のブラウス。飾りっ気は無い。


地味な服が好みというよりは、何かの意図が伺える。



トントントン......


一方ポールはと言えば、カウンターの内側で何やら包丁でみじん切り。



「いつからお前、板前になったんだ?」

 

カウンターに肩肘をついて、いかにも気怠そうなエマ。



「明日の仕込みをシテルンデス。バーテンダーでも仕込みをスルト、日本では板前になっちょうんデスカ?」



トントントン......


キャベツのみじん切りだ。

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傷だらけのGOD 極神島の秘密 吉田真一 @wsx

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