3.『人装神器ゴーアルター』著: 靖乃椎子 ジャンル:SF(No.006)
ロボットです。それはもうロボットです。個人的な話にはなりますが、ロボット物の作品って自分からはあんまり見ることが無いので結構新鮮でした。
で、肝心の内容。非常に長い作品ではありますが、そのポイントは非常にシンプルです。細かな部分で気になるところもありますが、一番大きなのは「ストーリーの見せ方」の問題。これに尽きると思います。
本作は設定などを見れば分かる(ネタバレがあるので本編を読んでから見たほうがいいです)のですが、非常にきちんと作られています。その内容自体には大きな問題は無いと思うんです。
問題なのは、その見せ方。「見せ方」というワードは自分が勝手に作った言葉ですが、要は「物語を構成する要素」を「どこから語っていくか」という事です。極端な話ですが、犯人の名前と手口を完璧に見せて、そこから謎解きをメインに持ってくる推理物は有り得ない、という事です。古畑任三郎のように犯人と古畑の掛け合いを楽しむ作りをしていれば話別ですが。
さて、この「見せ方」の悪さ。これは概ね作者が「神様の立ち位置に立ちすぎている事」が大きな原因となります。『Re:CREATORS』ではないですが、物語創作に置いて、作者はいわば神様です。だから、基本的には、主人公が知りうるはずの無い情報も全部知っていますし、結末までの展開も全て把握しているはずです。
ところが、読者はそうではありません。読者にとっての情報は実際に書かれる物語だけです。だから、色んな情報が一気に出て来れば当然混乱もしますし、視点がころころ変わってしまえば「あれ、今なんの話をしていたんだっけ?」という事になってしまいます。
話を本作に戻します。本作は「作品を構成する要素」は良いんです。自分が得意ではない部分、という事も有るかもしれませんが、世界観そのものには問題と言える部分は無いように思えます。
しかし、それを見せる手法。その部分に問題を抱えているように思います。恐らくロボット物のアニメか漫画(多分アニメだとは思うのですが)を愛好し、それを強く意識した上で作られた作品なのでしょう。視点の動きがちょっと激しすぎます。ロボットとか戦記物とかその手の、世界観が広大な作品では、確かに視点・場面はころころと動きます。しかし、同じことを文章でやってしまうと、これが大変伝わりにくくなってしまいます。
また、この作品は大変長い物語ですが、その辺りの「見せ方」を修正していくと、倍くらいに膨れ上げるような、そんな気がします。一つ一つの展開、その切り替えが非常に早いんです。読み手が混乱する、という事は無いと思いますが、やっぱり、じっくりと尺を取ったほうがいい部分というのは存在します。そう言った部分も圧縮されているような、そんな気がしました。でも『ナイツ&マジック』辺りのテンポが良いだけという内容を見ると、そこを伸ばすと受けが悪いんでしょうか。個人的には凄く悲しい事なのですが。
と、まあ、色々書いてはきましたが、悪いところばかりではありません。むしろ、作品を
構成する要素に大きな問題が無い(むしろ優れていると言って良い部類)なので、意識の問題でかなり良くなると思います。個人的には結構惜しいと思います。
要素面で気になる部分と言えば何だろう……ヒロイン位でしょうか。キャラ作り自体には何の問題も無いんですけど、これオタ界隈には受けが悪そうだなぁ……っていうのが印象。いや、居るんですけどね、こういう幼馴染。居るんですけど、実際に居るよねをそのままぶちまけると腹パンヒロイン(※1)が出来上がりかねないので、ちょっと気になるところ。
何だかネガティブな事が多くなってしまいましたが、構成要素の力をある程度順当に出せばSS以上はゆうに出るポテンシャルはあると思うんです。ただ、それだけ複雑に色んな事を考えて作られているだけに、どうしても読者視点を忘れて情報をバンバン開示しがちになるんです。
実際、商業で売れている作品で「伝わりが悪いなぁ」と思う作品は大体情勢や力関係が非常に複雑です。具体的には『蒼き鋼のアルペジオ』とか『GUNSLINGER GIRL』辺り。別に複雑怪奇というわけでは無いのですが、やっぱり作者が思っている以上に読み手は把握に手間取るように思います。だから、その辺りを意識して、より「文章的」、せめて「漫画的」位の描写にすればもっと良くなるのではないか、と思います。
※1…「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」において起きた事件。詳しいことは(ネタバレが嫌でなければ)調べれば出てくるのではないかと
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