ランクS

1.『人生リセマラ ~La Morte~』著:ona ジャンル:現代ドラマ(No.002)

 本作は、作品概要にもありますが、「人生をやり直す」という類のお話です。という類の話、とざっくり切りましたがそのタイプは結構色々有って、主人公自身の人生を何度も戻る作品、単純に一回だけやり直す作品、そもそも自分以外の誰かになる作品。その性質は様々です。


 しかし、それら全てに共通して言えるのは「設定をきちんとするのが大事」という事でしょうか。これはタイムリープ物なんかにも言えますが、条件がきっちりと決まっていないと「何となくやり直した」「何となく過去に戻れた」という状態になってしまって、いざという所でどうも盛り上がりに欠ける、という作品になってしまいます。


 前置きが長くなりましたが本題に入りましょう。本作はそういう点では非常に良く作られた作品だと思います。文章の最後に世界観(設定と言ってもいいかもしれません)が載っていますが、非常に丁寧です。中には本編に余り関わっていないような設定もあるのですが、それが良いんです。こういう作品(っていうか多分非日常を扱う作品すべて)にとって重要なのはそこなんです。例えば魔法。作者は「危機に陥った主人公が何とか乗り切った」というつもりで書いたとしても、設定面がしっかりしてないと「何か抜け穴があるんだろ?」っていう気分になってしまう。


本作はそういう作用が必要な場面は少ないですが、そうだとしても、きちんとしていると、曖昧なのではやっぱり大きな差があると思います。ここがまず明確に良かった点。


 それに加えて、人物。これが良く出来ていた。作品性質上ウエイトが大きくなるのですが、良く出来ていたと思います。まあ、そこが出来るから作ったのかもしれませんが。


 さて、問題はここから。と、言っても別に「ここちょっとまずいんじゃないの?」というコメントをつらつらとするという訳ではありません。どちらかというと「こんなのどうよ?」みたいな提案の色が強いです。


 まず一つは、タイトル。これは完全に自分の主観なので「そうではない」と言われるとそれまでなのですが、内容に対して「リセマラ」の四文字がちょっと軽いかなぁ、という感じがしました。


 リセマラという単語は作中でも触れられていますが、ソーシャルゲームをリセットして、初期に貰えるアイテム等の中から良い物を手に入れて始める、という言葉です。ちなみに正式名称は確か「リセットマラソン」。


 自分はそんなにリセマラを必要とするソーシャルゲームをほぼほぼやらない立場なので本当に印象になりますが、リセマラという行為は割と気楽に、それも何十回とやるようなイメージがあります。


 それに対して、本作。序盤に書いてあるルールから逆算すると、どれだけ人生が長かったとしてもできるのはせいぜい30回。平均寿命にすればその2/3位でしょう。その回数。そして、後戻り出来ないという重さから考えると「リセマラ」という単語はちょっと軽いなぁというのが正直な感想です。


 勿論、「人生リセマラ」という言葉が使われる経緯なんかも作中にはしっかり書いてあって、その辺りは抜かりが無いのですが、やっぱりファーストインプレッション的には気になります。タイトルを付けるのが下手な人間が言う事では無いかもしれませんが。


 次に、内容面。内容面、なんてふんわりした言葉を使ったのには理由があって、正直な所、一作品として具体的に修正する部分は無い。というのが自分の感想です。非常に出来ていて、無駄がない。じゃあ、何故内容面について述べるのかというと、この作品の持つポテンシャルはもっと高いのではないか?という感覚があるからです。


 目次を見てもらえれば分かるかもしれませんが、本作は全体的につながりを持った短編集(正しい表現かどうかは分かりませんが…)という性質が強いです。


 したがって、「人生リセマラ」をする個々に対して、必要なアプローチこそすれ、それ以上の踏み込みはしていない物の方が多いです。


 勿論、メインとなってくる人物(含死神)に関する情報はきちんと開示されています。しかし、恐らく一人の死神を語り部のようにする文体の性質でしょうか、淡々と示されているような気がしました。


 人物やキャラクターを語るうえで、過去の出来事は大変重要であるという事は他の批評(※1)でも述べた通りなのですが、その見せ方もまた同じ位重要です。「家族でドライブ中に事故が起きて、一人だけ助かった」という事実を淡々と書くよりも、一人だけ助かった人間の目から見た出来事と、その時に感じた事を書いた方が同じ内容でも遥かに感情移入が出来ます。


 また、この作品は性質上、大きなイベントが起きるという話ではありません。しかし、目を通してもらえれば分かりますが、これだけの設定です。世界観です。個人的にはこれを強く生かして欲しいなという風に感じました。


 主人公となるのは最初に出てくる死神でしょう。その主人公から見た物語、或いはいっその事この世界観を舞台にした全く違うお話でもいいと思います。例えば『主人公の男と死使いの女の子がいて……』という話とか。本当に朧げな例えですが。折角死神に関してこれだけの設定があるのです。その分だけのお話があるような気がするんです。ちょっとだけ出てきていましたが、死神の階級、死神同士のお話、人間との関わり、それからイレギュラーな事態。その最終的な落としどころはやっぱり人間と死神の別れでしょうか。そうなると主人公は人間サイドに置いてもいいかもしれませんね。あ、案外ここが肝かも。主人公の立ち位置。


 ……と、まあ内容面に関して色々な事を書きましたが、これはあくまでも「自分の主観」が入った感想とアドバイスです。本作は「NOVEL0」を対象として書かれた作品なので、もしかしたら主人公が何かに巻き込まれるというスタイルは向かないのかもしれません。その場合はもう現段階から弄りようが余りないんですよね……後出来るのは話を積み重ねていって、あくまで客観という形で、死神界(と人間)の物語を何となくあぶりだしていく、という手法をより強くする事くらいでしょうか。


 色々な事を書きましたが、正直な所余り見ないタイプの形をしていたので、このアドバイスでいいのかは不安な所。


 自分の感性でアドバイスするなら「主人公を人間サイド」にして「世界観とキャラクターを使った長編」にするというラインだろうという事で、その方向性でつらつらと書きましたが、これも「尖った部分をそぎ落として、一般化しただけ」になりかねないような気がしています。


 ただ確かなのは、「キャラクター作り」と「世界観設定」。ここに関しては間違いなく優れている。という事でしょうか。特に世界観。ここがこれだけかっちり作れるのはやっぱりいい事だと思います。


……余談ですが、何故か自分の頭には『ダレン・シャン』が思い浮かびました。何故だろう。眷属と死使が被ったのかなぁ?


※1全体No.001にて解説


(作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883096935

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る