ランクB

1.『実れ! 恋の応援団! (混ぜるとむらさき)』著:山本のり ジャンル:ラブコメ(No.001)

  冒頭を少し読めば出てくる話なので書いてしまいますが、要はアレです。天使の服装をした自分と、悪魔の服装をした自分が脳内(頭の上?)でバトルする。あれに近い着想で書かれた作品です。


 ただ、その手のネタとは違い、各々(人間と脳内人格)が明確に独立している感じです。大体、見た目だけは同じ事が多いんですけどね。


 良い所(というよりは特徴かな?)は2つ。


 まずひとつは、主人公(一人称の視点)が人間の方では無い事、でしょうか。この発想を一作品に広げている事自体余り見ないですが、仮に広げていたとしても主人格(?)の人間にスポットが当たっているという場合が殆どだと思います。


 これは何でかと言うとはっきりしていて、「脳内で人間ドラマをやる必要性が無いから」なんです。だって、そうでしょう。人間と同じように考え、生活する脳内人格の物語だけだったら、人間同士でやった方が話は広げやすい訳ですから。


 ただ、一方でこの作品の良さはこの視点(加えてそのキャラクター性)にもある訳で、そうなってくると「視点はこのまま」で「人間同士には無い要素」を追加する、というのがベストになるかなと思います。


 例えば「この人格はどのようにして成り立ったか?」という疑問。短編なのであまり多くの情報を追加することは出来ないかもしれませんが、そういった「細かな情報」を設定してやることで大分人間同士と差別化が図れるのではないかなぁと。


 主人格が生まれた時から居るなら、当然他の人間にも居るかもしれない。そうなれば「主人格以外の脳内に居る人格との話」が作れるかもしれません。そうでないなら「何らかの原因・要因が有って生まれた」かもしれない訳で。そうなれば「何故生まれたのか?」という次なる疑問も出来ますし、そこに色んな話を作ることも出来ます。別世界線の主人公とか。まあ一例ですけど。


 ふたつめは「主人公の性格(というよりも口調?)」が独特、という事。これは多分長所にも短所になり得るかなぁと。下ネタ(?)を含めたテイストが、ライトノベル及びライト文芸読者、或いは審査員にどういう作用をするかはちょっと未知数です。


 極端な話、これが他作品との「違い」になって見いだされるという可能性もありますし、これが原因で避けられる可能性もあるかなぁ、と。


 もし出来るのであればこのちょっと江戸っ子っぽい口調(上手く言い表せているかは分かりませんが)はそのままで、ラノベとかその辺りのエッセンスをもう少し入れられるといいんですけど、これは多分大変難しい。自分でもやりたくない位。


 なので方針としては「現状を貫く」か「がらりと変える」の二択でしょうか。変える場合キャラクターとしては間違いでないので、主観としての視点を別の所に移すのがベター……かなぁ。


 後気になった所はキャラクター。基本的な部分は抑えているので問題は無いのですが、もうちょっと精緻さが有るといいかなぁ、という感じ。


 脳内の二人(人で良いのかな……?)は本能と理性なので、もう少し主人公の性格と親和性があってもいいかなぁという感じがします。もしかしたら意識はしているのかもしれませんが。


 「本能」も「理性」も、元を正せば主人格の持っている物です。それを考えた時、やっぱり主人公の性格と「本能」「理性」の性格にやや乖離があるかなぁ、というのは正直な感想です。


 このアイデアを今後どう扱うのかは分かりませんが、仮に「他の人間にも脳内人格を作成する」場合、その辺りの意識はより重要になってくるかとも思いますし、逆に言えばそこが大きな強みとなってくるはずなんです。本心と理性がせめぎ合ったり、その結論がとんでもないところに行ったり、それによって主人公が行動をする。そんな物語にとっての「核」となる要素はやっぱり「キャラクター」なのかなぁ、と。


 細かいキャラメイキングは自分も教えられない(明文化出来ない感覚でやっている上、ガッツリネタバレしないといけない)ので書けませんが、「主人格」と「本能」「理性」の関係性を意識するだけで、大分変わるんじゃないかなぁと思います。


 思い付き、というか「脳内人格に一人称を持ってくる」という試み自体はいいと思います。それが使われない理由は上に書いた通りなのですが、別に「やっちゃ駄目だよ」という話では無いですし、「人間同士のやり取り」では駄目な理由付けも出来ると思います。それに、この手の着想はある意味「洗練された作品作り」に終始していると出てこない物でもあります。


 なので、その辺りを意識して、この着想を育てていくと、より良くなるのではないかなぁと思います。大事ですよ、常識を超えた発想って。

 

(作品URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883000892

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