自分自身の結婚が決まり、相手の家族と会う前日。
恵子は、自分が生まれ育った家の実の娘ではなく、養女だったという事実を父から知らされる。
心から慕い——いつしか深い愛情へと変わった、兄の秀一郎への思い。
叶わぬその想いを振り切ろうとしていた実の兄が、本当は血の繋がりのない人だった——それを知った恵子の衝撃。
そして……その事実を知りながらも、自分を受け入れてくれなかった秀一郎への、複雑な感情。
妹の、兄への深く熱い想いが、季節ごとの花々や情景の描写とともに、溢れ出すように美しく、切々と綴られます。
この物語は、秀一郎と恵子の深まる想いとその結末を綴った作者の作品『君想フ銀ノ雨 君慕フ金ノ庭』のスピンオフ作品です。嫁ぐ直前の恵子の、秀一郎への叶わない想いの深さと痛みが、読む者の心を掴み、ぐらぐらと揺さぶります。
是非本編と合わせて味わっていただきたい、美しく切ない物語です。
一言で言えば、血の繋がらない兄妹の葛藤。物語は妹の視点で語られますが、それと同等の思いが兄の中にもあるのがわかります。
兄妹でありながら兄妹ではない――そんな二人が両想いでありながら結ばれないもどかしさがひしひしと伝わってきます。
テーマは重いけれど単純。単純ゆえにあまり引っ張ると自己陶酔に陥って読み手が飽きてしまう危険があります――ただ、この文章は決して読み手を飽きさせません。言い方は悪いかもしれませんが「噛めば噛むほど味が出る」といった感じです。
「詩的な純文学」とでもいうのでしょうか? 歌の歌詞のようなリフレインの部分が読み手の感情に訴え掛け、心を震わせます。また、古典的な文章(和歌)の挿入がとても効果的で物語に厚みを持たせます。
改めて思いました――これが筆者の世界観であって真骨頂であるのだと。
ボクには書けない文章。すごく勉強になります。
ぜひ目を通されることをお勧めします。
花に、雨に。心をとられたそんな日に、こちらを目にされた皆様。
それはきっと偶然ではなく、想いの道しるべに誘われたのです。
抒情詩の旋律、ここに極まれり。どなたでも、意もせず涙が一つ零れる、優しい感動を覚えることでしょう。
苦しく、やるせない、そんな儚い想いが和歌の抑揚に乗って胸にしみ込みます。
物語は続編ではありますので、前作『君想フ銀ノ雨 君慕フ金ノ庭』、また、
早瀬翠風様による『銀の雨に君を想い 金の庭で君を慕う』をご覧いただいてからですとより一層
お楽しみいただけることと存じますが、こちらに感銘を受けた後でそちらをご覧いただくもまたよろしいかと。
素晴らしい作品を、是非とも静かな夜、ご堪能下さいませ。