「私」を脱皮する季節


>──難しい問題ですね、一概にどちらが良いと言いきれないものだと思います。

とは物語に出てくるニュースでのコメントですが、椿と柊ふたりの関係もそうなのかなあと思いました。
彼女と穏やかに暮らす関係は、たまに不安にもなるけれどやっぱり心地よくて、それを急にうしなうことになったら。こわいです。おいていかないで、という気持ちは切実で苦しい。

椿の感情は、自分が同じことを経験したわけでもないのに知ってると思いました。柊の名前を「美しい」と感じるのも、とてもとてもよかったです。すきなひとの名前は愛おしい。

>私と世界とを分かつ、半透明の境界。

このフレーズが二回出てきますが、それぞれで意味がかわってくるのが素敵でした。正しいかはわからないけれど私たちはこう決めた、だからこれで行く、というふたりの進み方がすきです。諦めでも妥協でもなく、やさしい終わり方でした。

もとの卵のお話はそのままぜんぶ大好きで、大切です。それでも、あたたかい日だまりのようなこの物語を、同じようにすきだと思います。
椿が春を嫌いにならなくてよかった。
願わくは、ふたりがつぎの季節にちゃんと踏みだせますように。

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