リボンの絆創膏


「ねぇ、デュオが終わったら綴くんも誘って遊びに行こうよ!」


今日、外は大雨。それを忘れるくらい明るい声で琴子が言った。


「良いけど、何処へ?」

「近場でいいんじゃない?ブラブラしてご飯食べようよ!」

「分かった。綴に聞いてみよう、おーい綴!」

私は後ろにいる綴に向かって大きく手を振った。何だ?という顔をしてこちらにかけよる綴。

「今日放課後皆で遊ぼうよ。」

「あぁ、いいよ。」

「じゃあ玄関で待ち合わせね!」

「おっけー。」


先生が来て琴子が前を振り返ると、綴が私の横で止まった。

顔を上げると、無言でじっと私の方を見てきた。

何?とたどたどしく聞くと、何かあったでしょ。と小声で言って席に戻って言った。


綴にまだ”あのこと”は話していない。

話そうにもどこから話していいかもわからない。

誰かに聞いて欲しい気持ちより、秘密にしたい気持ちの方が大きい。

雨のザーザーという音がぼやけるように耳に入ってきた。




***



「お待たせー!」

デュオが終わり先に待ってた琴子のところに駆け寄った。


「そこまで待ってないよ。それより、ねえ、外見てよ!」

「わ!」

さっきより雨が強くなっていた。それもかなり。地面をバチバチ打ち付けている。


「駅までダッシュしよう。」

綴が言うと琴子もそうだね!と言って、傘をさしてダッシュの準備を始めた。


「ちょっと待ってちょっと待って!走っても雨に濡れる量って大体一緒じゃないの?!」

「そんなこと言って、ダッシュしたくないだけでしょ〜。」

「ウッ」

「ほら!早く!」


私たちは駅までダッシュした。

ただ走ると飛沫が飛ぶから、ものすごく早歩きで、ササササと固まって移動した。

周りから見ると怪しいに違いない。

元々歩いて五分くらいだから、すぐ駅に着いた。その足でそのまま電車に乗り、目的地まで向かった。

電車の中では、あの授業難しすぎるとか、購買のパンが高くなったとか、そんな話をした。

遊びに行ってよかったと思った。一人だとどうしても考えてしまう。

雨の中の電車は床は濡れてるし、蒸し蒸しするし、傘は面倒臭いし、快適じゃないけど今日は違った。





駅について降りると多少雨が弱くなってた。最初はまずご飯を食べに行こう、と言うことで、駅ビルの洋食レストランに入った。


「これ、いいけどなあー。」

私がメニューを見て、何かありそうに悩んでいると、綴が「野菜が嫌なんでしょ?」とズバリ当ててきた。

「そうなんだ、温野菜なら食べられるのだけど...。」


「二人って本当に仲良いね、嫌いなものすら把握してるんだ。」分かっていたとはいえ、と言う感じで少し驚く琴子。

「綴とは好きなものと嫌いなもの、すごく似てるから自然に覚えちゃった!だよね、綴。」

綴は隣でコクコク頷いた。


結局、琴子はナポリタン。綴はデミチーズオムライス。私はデミチーズハンバーグにした。

ここのデミチーズハンバーグは美味しい。

弾力があるハンバーグに、すっとナイフを指すと肉汁が溢れてくる。口に含むと熱々で噛みしめるたび旨味がぎゅっと口に広がる。それでいて、ボリューミー。その上に乗っかっているチーズが濃厚で、デミグラスソースがそれらをしっかり締める。最高である。

お腹が空いてた私たちはすぐに食べ終えた。少し雑談しながら休憩してお店を出た。


そのあとは楽器屋さんに行ったり、本屋に行ったりして、あっという間に時間が過ぎたから解散。


帰りは綴と同じ方向だからまだ二人きりになった。




雨は遊んでるうちにとっくに止んでいたようで地面は乾ききっていた。

ボーッとしていると、綴が「何かあったでしょ」と言ってきた。

私が口をつぐみ「何からいえばいいかわからないんだよね。」というと綴は黙ってしまった。


そのままの流れで公園に寄ることになり、私は全てを話した。

好きになって期待させられて、適当にされて、また期待させられて、この始末だということ。


そして一番言いたくなかった傷のことを言った。


言ってる時少し泣きそうになったが、不思議と心が晴れ晴れとした。

誰にも言えなかった気持ち、わだかまりが一気にすっと抜けて言った。

この一瞬で心が軽くなった。




「知らなかった。」

綴の声が静かな公園に響いた。

「松田がそんな最低なやつだとは知らなかった。あいつそんなやつだったんだ。本当にクズだ。」

綴がここまで誰かのことを悪くいうのはこの時初めてだった。

今までは何かあっても黙ってたり、まあ仕方ないよ。とか、そういう子もいるんだね。とかだったから心底驚いた。


「それをもう一度信じたのもバカだね。」ハッキリ言われてしまった。心に痛いほど刺さったけど正論である。

「もう今後は二度と関わらないこと。もう二度と二人で会うなよ!ろくなことにならない。ありえない男だから近づくな、同じ男として考えられない。」私のためになのか、男としてなのかここまで怒ってる綴に怖いという意識はなかった。

人情深く友達思いでやっぱりその奥に優しさがあるんだと分かった。



「それに傷のことは知ってたから。」

「え。」

「毎回一緒にいる時、カーディガン着るときリストバンド外すから。でも気にするほどじゃないよ。それを理由にとやかく言うアイツは許せねぇ。」

「・・・。」

言葉にならなかった。嬉しさより一秒前に驚きだった。知られてたということ、だけど知らないふりをしてたということ。この時、私の不安をいつも即座に消してくれるのは綴だった。

こんな情けない私でさえ、結果的に受け止めてくれるとは思わなかった。

綴は、「なんで行ったのかな、なんでまた信じたのかな」とブツブツ怒ってるけど別によかった。分かってくれてると言うことがわかったから。

「ありがとう。」そう言って、また少しで話してから私たちは解散した。


心のわだかまりが取れた瞬間だった。





次の日の朝、またあのあと夜から続いてた雨がちょうど病んだ。

綴との待ち合わせ場所に向かうと珍しく綴が先に着いていた。

「おはよー!」

「おはよう。はいこれ。」

渡されたのはラッピングされた小さな小袋だった。

「なにこれ?くれるの?」

まさかと思い聞いてみたら頷かれた。開けてと指を刺すから開けると、そこには綺麗な赤いリボンがあった。

「わあ可愛い!なになに!何故こんなことしてくれるの!」

「嫌だと思うけどリストバンドとって。」

「えっ。」

その後のいきなりの発言にためらったけど、あまりにも真剣な綴をみてリストバンドをとった。その腕に綴はリボンを巻いた。

「この方がいいよ。完全には隠れないけど赤いリボンの方が目立つから。」

確かに完全には隠れないけど、太く赤いリボンがうまいこと隠して少しあざがあるのかなくらいに見える。

「いつもリストバンドだと不自然だから。これならピアノにも合うし。」

「こ、このリボンどうしたの?」

「買ったんだよ。」

「私のために?」

「他に誰がいるの?」

嬉しさがこみ上げてきた。それにものすごく恥ずかしかった。こんな素敵なことをされたのは初めてで状況に耐え難かった。

なんてロマンチックなんだろう、自分でもそう思ってしまった。

「綴、本当に本当にありがとう!すごいよー!嬉しいよー!」

私がピョンピョン跳ねて感謝していると綴も嬉しそうだった。そして最後に、もう二度と会うなよと念を押された。

当たり前だよ分かってるってー!と言って、私たちは学校へ向かった。

向かってる途中、少し遠くに虹が見えた。

ここ最近、今までで一番の素敵な朝だった。

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