健康第一

 匿名の通報を受けた警察が、「五つ星の小屋」へ訪れた時、高田は出血多量による仮死状態だった。すぐに病院へ搬送され、一命は取り留めたものの、舌と指を切り取られていたので警察の取り調べには応じられなかった。

 しかし、ほどなくして里中愛実も同じ状態で発見されると、マスコミは【TOKYO ミライト】にまつわる一連の怪事件として報道。その残虐性から世間を騒がせた。

 その後、施工管理責任者、デベロッパーの営業担当など次々に関係者が同様の被害に遭い、警察は【TOKYO ミライト】プロジェクト連続傷害事件と断定した。

 当該プロジェクトに関わった主要人物をピックアップし、そのうち特に重要だと思われる人間を監視することで再犯防止と犯人逮捕につとめた。


「お待たせしました」

 若い刑事は、そう言いながら張り込み用のカローラの助手席に乗り込んだ。

 運転席に座っていたもう一人の刑事は生返事をしながら、監視対象者が住むマンションのエントランスを眺めていた。

「甘い系はチョコのパンで、しょっぱい系は焼きそばパンにしました」

「お、サンキュ。にしても、【TOKYO ミライト】はとんだ負の遺産みたいだな」

「そうなんですか」

「なんでも最初は大手デベロッパー各社の競合コンペだったらしいんだけどな。与党の政治家が口きいて、一社だけにだいぶ安値で土地譲ってるみたいなんだと」

「ああ、なんかニュースでやってましたね」

「お前さ、自分が担当の事件のニュースぐらい見とけよ」

「すみません」

「にしても犯人はどんな野郎なんだろうな。拷問して指とベロ切り落とすなんて、とてもまともな人間のやることじゃないよな」

「そうですね」

「再建手術は終わってるらしいけど、なんせリハビリが大変みたいだからな」

「へえ、義手みたいなもんですか」

「そうそう。でも、あの茨城で発見された建築家のじいさんいたろ」

「最初に発見されたっていう」

「あの人なんかはチンコ切られてたらしくて、それは戻らねえんだと。最悪だよな」

「それは最悪っすね」

「あれ、お前、飲み物は?」

「あ、すみません。どうぞ」

「……なんだこれ。青汁みたいだな」

「青汁です。健康は何より大事ですからね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好奇心は誰を殺す。 @TEL3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ