理由

 深作はカメラを操作すると半回転させ、サムネイルを高田に見えるように仕向けた。画面の中には、今の高田と同じように泣きながら椅子に座る里中が映っていた。彼女は一糸まとわぬ姿だった。

『……高田さんは私の設計図を褒めてくれました。多少手直しさせてくれというので預けたら、それがミライトとして発表されたんです』

 深作の声が響いた。

『彼を訴えようとは思わなかったの』

『……思いました。彼を問いつめたら二人で話そうと車に乗せられて、人気のない場所まで連れて行かれました』

『そこで何をしたの』

『彼は、その……』

 彼女が言い淀んだ瞬間、先ほどと同じく金づちが宙を舞った。里中にはぶつからなかったものの、派手な音に彼女は身をすくめた。

『彼は、そこで、私を、無理矢理……』

 映像はそこで一旦停止した。再びレンズが高田を向くと深作は質問を続けた。

「彼女の言っていることに間違いはないか」

 全てを諦めたのか、高田は泣きながら何度も頷いた。

「そして里中愛実を口封じのために犯した」

 何度も何度も頷いた。

「知ってますか。強姦された女性の多くは訴えず、そのまま泣き寝入りするって。あんたの場合は、ご丁寧にハメ撮りまで押さえているんだから確信犯だよな」

「仕方なかったんだ。彼女は俺のことを訴えるつもりで話なんて一切聞こうとはしなかったんだ」

「レイプチンポ野郎がなにを悲壮感出してんだよ」

 高田は里中を犯した時のことを思い出していた。その日、彼女を車に乗せてお台場付近の公園近くで無理矢理襲いかかった。最初は抵抗していたものの、事前に用意していたナイフで脅してからは簡単だった。

 一気に虚脱した彼女の両手を結束バンドで縛り、事に及んだ。スマートフォンで画像と動画を撮ることも忘れなかった。自分でも驚くほど冷静だった。

「……里中は、彼女をどうしたんだ」

「質問するのは俺だ。頼むからいいかげん身の程をわきまえてくれ」

「わかった、悪かった……」

「さて、続けよう。なんで賞を辞退したんだ」

「さすがに彼女に申し訳ないと思ったんだ」

「でも、そこで真実を公表しようとは思わなかった」

 高田は黙りこくった。

「自分の罪を明らかにして償おうとはしなかったんだな」

 無意識のうちに涙がこぼれてきた。深作は高田の頬を思い切り張った。

「あんたに泣く権利はないだろ」

 それでも高田は泣き止まなかった。鼻水も涎もまき散らしながら深作に叫んだ。

「満足か! お前の言う通り、俺は最低の人間だ! だけどな、俺なんかが言えたもんじゃないけどな、お前のやってることはなんだよ。正義のヒーローぶって、やってることは異常者じゃないか。頭がおかしいんだよ、お前は!」

 深作は高田の顔面を素手で殴り始めた。

 一発、二発、三発、四発……。

 十発を超えたところで深作は床に落ちていた金づちを拾い上げ、それで高田の顎を持ち上げた。

「勘違いするな。俺はお前が誰を犯そうが、パクろうがどうでもいいんだよ。だけどな、あのビルをつくったことは許せない。なんであんな醜悪なものが生まれたのか、それを知りたいだけなんだよ」

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