ほのかに香る、春。

おばあちゃん子の18歳の少年が祖母のお見舞いに行く。
その道中を描いた、ただそれだけの、穏やかな短編。
「ただそれだけ」が小説として成立することができるのは、
筆者の描く山里の情景が素晴らしく繊細で趣深いからだ。

北陸を行くローカル鉄道の車窓の風景に魅せられながら
祖母の思い出を辿るうち、かつて祖母に名を教わった花が、
不意に彼の前に現れた。そして恋が芽吹いていくのだろう。
「始まり」の物語に、まだ少し寒い春の情景はよく似合う。

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