木訥そうな印象を受ける高校三年生の男の子が、ローカル鉄道で出会う春。 車窓からの風景に心和み、香りたつ春の息吹を感じます。そして淡い恋心の芽生えも春を思わせます。 柔らかな文体で、里山の春をこれでもかというくらい描ききっています。 素朴な里山の春を感じてみませんか。
普通の恋愛小説とは違って、とても質感が柔らかかった。 祖母との思い出の山菜を軸に物語は進み、主人公はある女性と出会う。 その女性もまた、主人公の祖母を知る人物だった。 題名の「春が宿る」と言う題名が、すとんと腑に落ちる展開で、とにかくこの作者様の手腕がすごい。 主人公の名前がどうしてこの名前なのか、という解もそこにはあって、祖母が主人公をどのように思っていたのかが、端的で無駄のない文章で描かれているのも良かった。 是非、是非、御一読ください。
おばあちゃん子の18歳の少年が祖母のお見舞いに行く。その道中を描いた、ただそれだけの、穏やかな短編。「ただそれだけ」が小説として成立することができるのは、筆者の描く山里の情景が素晴らしく繊細で趣深いからだ。北陸を行くローカル鉄道の車窓の風景に魅せられながら祖母の思い出を辿るうち、かつて祖母に名を教わった花が、不意に彼の前に現れた。そして恋が芽吹いていくのだろう。「始まり」の物語に、まだ少し寒い春の情景はよく似合う。
主人公が山菜が好きというところ、子どものころ周囲がそれを理解してくれなかったこと…そんな設定から、どこか頑なで決して要領がよくない少年のイメージが湧きます。そこにふってわいた家族の事情と、思わぬ出会い。食パン加えた女の子とぶつかるような鮮烈さではないけれど、動かなかった心に、そっと触れるような出会い……恋バナと呼ぶべきかどうか微妙なくらいの淡さが、かえって今後の展開を期待させます。