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概要
愛を形に残すためには……
忘れるという作業は私にとって実に容易で難しい。今もぼんやりと書棚の前に立っているが、一体どの本を探しに来たのか思い出せない。それにも関わらず、隣の寝室から聞こえてくるモルダウの流麗な調べが、鍵盤によって紡ぎだされる柔らかな音色が、この耳に入る度に私の脳は官能的な刺激に浸る。完全なものはそこに存在して当たり前のものとなるため、時としてその存在を忘れ得る。しかし、それは記憶の底に沈殿した澱のようなもので、ささやかな刺激によって一度舞い上がってくるといつまでも脳裏を過って忘れることが出来ないものだ。そして不意に舞い上がってくるこの恍惚とした感情こそが、私が自身の作品に対して丹念に注ぎ込んだものだと言える。……
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