第一章 輪転 2

 日々は過ぎて、試験期間は終わり、夏休みに突入した。暑さが増して、息がしづらいくらいだ。

 幸い、数年前に図書室と教室に空調機器がついた。以前はなかったのだ、ここを卒業した現在の父兄が危機感を持ち、寄付を集めて一台ずつつけてくれたらしい。

 教師が恩着せがましく感謝するよう言って、今日も空調のスイッチを入れる。

 進学する面々は、学校で行われる夏期講習参加者と、自費の塾通いに分かれている。両方兼ねて昼間は学校の、夜間に塾の講習に行く者もいる。

 自分の目的に合わせて調整しつつ、裄夜も教科書と参考書を辿った。

 太陽が中天を超える頃、校庭や体育館での部活動の声も静かになる。

 教室で昼食をとる者も多いが、裄夜は外へ出た。コンビニで買い物して、また校内に戻る。

 うだる暑さで、通り抜ける中庭も、かなりの湿度だ。というか植え込みに、植えられた覚えのなさそうな雑草達が、元気に勢力を伸ばしている。

 見ているだけで蒸し暑い。

 うんざりして日陰を探しながら歩くと、突然、何かが飛びかかってきた。

 叫んで、思わずバランスを崩す。転んだ裄夜に、大きめの声がかけられた。

「悪い悪い、そんなに驚くとは思わなかったぜ!」

「久賀(くが)!」

 半袖の同級生が、日に焼けた顔をこちらに向けていた。手には水道から繋いだホースが二つ。

「こんな時間に水やりしたら、まずいんじゃない?」

 今水を撒いても、煮える。早朝と夕方にすべきものだ。

「だってあっついんだもんよ」

 久賀は自分で水を被ったのだろう、シャツも黒髪もずぶ濡れだ。髪は先日短くしたばかりなのに、また少し伸びかけたように見える。

 あの水しぶきの一部を、裄夜は被ってしまったわけだ。尻もちを着いた場所は濡れていなかったので、制服の被害は少なく済んだ。

「久賀も夏期講習?」

「そうそう」

「その割には顔を見なかったけど」

「実は遅刻した。道で猫を拾って」

「嘘だろ」

「本当だって。遅れて教室に入りづらかったので、準備室に詰めてた先生を質問攻めにしてきた。それから部活に顔出して鬱陶しがられてきた。昼休み過ぎたら教室に戻るつもり!」

 三年生なので本来なら部活もほぼなく、夏休みは夏期講習でひたすら試験問題を解き続ける練習をするわけだが、昼休みはある。息抜きくらいしようぜと、久賀は水を撒き続けた。

「で、水瀬、土日はどうする? 先生達は休みたがってるから、みんな塾だの自習室だのに行くわけだけど」

「うーん、家の手伝いかな」

「また畑かよ、勤勉だな」

 親が長期出張でおらず、親戚の家に間借りしている設定だ。休みの日は若い人手として田舎で畑をやっていることになっている。限りなく、嘘は言っていない。

「たまには息抜きに遊びに行かんか~」

「話をしながら水をかけるのやめてほしい」

「はいはい。レイトショーの映画を観てこようと思ってんの。金曜」

「今日」

「そう。明日用事があるなら、今晩誘うのは悪いなと思って」

「行くんだ?」

 久賀の後ろに、いつの間にか他の同級生達が現れていて、にやりと笑う。

「行くよ~せっかく夏休みだし息抜きしようよ~」

「息抜きは大事だけどさ」

 裄夜は久賀の水撒きを避けながら聞く。

「何の映画?」

「これこれ!」

 用意のいい連中が、端末画面を突きつけてくる。

 深夜帯のホラー、恋愛物など、画面の表示は様々だ。

「えっ、これみんな違うの観るつもり?」

「そう。現地集合してそれぞれのスクリーンに消え、そしてまた合流してすぐ解散します! 健全!」

「健全なのかなぁ」

 集合場所と時間だけ確認し、即答を避けた裄夜は、昼食を食べに教室に戻ることにした。喋るうちに制服は乾いたし、外は暑すぎる。

「そうだ、土日はほんとに畑か?」

「畑と山かな。しいたけも取ってこないといけないらしくて。原木のやつ」

「おーおー、そりゃ気をつけて行ってこいよー」

 久賀が軽やかに手を振った。

「つうかマジで気をつけてな」

「何で念を押す」

「言霊っていうだろ。気をつけてねって言われたら事故に遭いにくいとか」

「そうなの?」

 だとしても、今晩映画館で会うのだから、週末の安全祈願をするのはその後で良い気がするが。

 いーんだよ、と、久賀は笑った。友達からの命綱ってやつだよ、と。

「成程、フラグってやつ。これも一種の言霊なのかな」

「何言ってるの、裄夜」

 日向に文句を言われ、裄夜は回想を打ち切った。

 さっきから映画館に辿り着かない。塾がある通りから繁華街はそれほど離れていないので、中高生だからとてすぐ補導されるわけではないが、なぜか風体の良くない人に追われたり、話しかけられやすい。ぐるぐると回っては、塾の学生に紛れてみるが、何度やっても映画館が併設された建物に近づけなかった。

 昼間の話を聞いた日向が、じゃあ自分も何か観たいと言い出して着いてきたところからがイレギュラーだったのかもしれない、と責任転嫁していると、日向がもう何本目か分からない飲み物を自販機で買って飲み始めた。

「中津川さんめちゃくちゃ飲んでるけど大丈夫?」

「分かんない……端的にカロリーがあるものがこれしかないって感じの体の動き」

「シズク?」

 術者や怪異絡みの出来事にしてはあまりに地味な「迷子」ぶりだが、何か起きてはいるし、それにシズクが反応しているのなら、やっぱり怪異なのかもしれない。

 何かを警戒して、神経を使っているから、エネルギー補給で食べたいらしい。食べることと警戒とでは、真逆の体の使い方ではあろうが、日向の体ではシズクの動きに追いつかないから仕方ないのだろう。

「今のところ、シズクは警戒していても、キセは出てこないんだよね。そこまで危険はないと考えてもいいのかな」

「何か思いつくことってないの? こういうときにどうしたらいいのか。裄夜が知らなくても、キセが知ってるかもしれないし」

「うーん。僕としては、簡易な札も書けるけど、何が原因か分からないから、どういう種類の札がいいのか思いつかない。追い払うのがいいのか、その辺に縛りつけておいて自分達が通り過ぎたらいいのか、自分達が隠されていればやり過ごせるのか……」

 浩太にも、キセが出てこなくても、キセが持っているはずの知識だけ抜き出せるのではないかと言われたが、それこそ当てのない気がする。触れようとすると、静かな湖面を見つめているような心地になる。綺麗な水鏡。手を沈めても、押し返される。

「とりあえず、試しに隠れてみようか」

 裄夜は日向に一枚、自分用に一枚、白い紙に隠形の依頼を書く。

 これで、街で声を掛けてくる者は居なくなった。

「ねぇ裄夜、友達と合流するために映画館の前で札を破ったら、一斉にやばい人達に見つかって、乱闘にならない?」

「そうかもしれない。結果を先延ばししただけだよね、もうちょっと調べて行こうか」

 二人で、隠形したまま、怪しげな風体の連中を確認して歩く。元々普通の怪しげな人達のようだが、日向が、彼らの着崩れたスーツの袖に、光るものを見つけた。

「これって蜘蛛の糸かな?」

「操られてるのか、養分でも吸われてるのか、何だろうね」

 怪しげな人達は、よくよく見れば一様に、目の下にクマが出て、剣呑な顔つきである。

 探せ、探せ、紛れているものを探せ、と口々に呟いている。

「誰に、何を探せって言われてるんだろう?」

「糸、切ってみてもいい?」

「接触したら、こっちの隠形が途切れるかもしれない」

「もう切っちゃった」

 いい? と聞いた時点で実行に移したらしい。

「中津川さーん!」

「ごめん、許可じゃなくて、やるねっていう予告だったの」

 ふつりと切れた糸を、日向は捕まえたままだ。見知らぬ怪しげな人は、ぼんやりと立ち止まっていたが、やがて見る間に目に光が戻った。自分の格好に気づき、首を傾げながら上着を脱ぐ。

「あのっ、さっき私とぶつかったんですけど、具合悪いんです?」

 日向が裄夜に札を押しつけ、相手に言いがかりをつけて呼びとめた。

 相手はしどろもどろに謝ってくれる。この人物は、元々はただの学生だったらしい。大学生で、アルバイトに出かけた後、途中から記憶がないという。

 気をつけて帰ってねと、日向が見送ると、相手は訳が分からない顔のまま、ぼんやりと帰っていった。

「中津川さん、言霊が上手いのかもしれない」

「え、何で?」

「気をつけてねって言われたら、大丈夫なんだって……そう言ってた奴がいてね」

 しかし、その人物から気をつけてと言われた矢先に、これである。言霊の扱いはちょっと難しい。

「言霊の大変さって、ウタウタイで分かってたはずなんだけどな……」

「よく分かんないけど、糸を切ればいいのは分かったから、切るね」

 札を手放した日向に、怪しげな連中が押しかける。日向は次々に倒していく。裄夜は、糸の元凶の何かに目をつけられないうちに逃げなくては、と逃走ルートを考えたが、日向を誘導するより先に、怒号が降ってきた。

 声の主は、くたびれたスーツ姿の男だ。酔っ払いのようで呂律が回らず、何を言っているのかはっきりしない。

「私が糸を切って邪魔をしたから、怒られてるみたい?」

「そもそも絡んできてたのは向こうの方なんだけど」

 二人で言い合って、切れた糸の先が怒鳴り散らしている男に繋がっていることを確かめる。

「このひとが犯人みたいだけど、探してるのは私達じゃなくて、他の人みたい。邪魔って言われてるみたい」

「うん、何かめちゃくちゃ怒られてるけど、子どもはさっさと帰れって言われてる気がする。これから何かが起きるんですか?」

 裄夜が日向に相槌を打ってから、札を破り、流れるように男に質問を投げかける。

 何か説明してくれているようだが、やはりよく分からない。

「これから映画館に行くんですけど、そこも危ないですか?」

 再び糸を繋がれた人々が、ぬっと立ち上がった。わらわらと集まって襲いかかってくる、かと思いきや、左右に避けた。映画館方面は大丈夫らしい。

 礼を言って、二人は集合場所に向かった。


 集合場所には、数人がたどり着いて立ち話をしながら待っていた。まだ来ていない者もいて、連絡はついたり、ついていなかったりするらしい。

 裄夜達が絡まれたように、あのルートを使おうとした者は通れないでいるのかもしれなかった。

「さっきあっちから来たんだけど、何かあったのか混雑してて抜けにくかったんだよね」

 という話にしてみると、同級生達はそれぞれ他の友人や何かのツテで噂話を集めてくれる。

「裏通りのコンビニで立てこもりがあったんだって」

「何か怪しい男達が仲間割れして、刃物を持った奴が逃走したらしいよ」

 糸を繋がれた人々のことだろうか。刃物を持った者はいなかったが。

「犯人と仲違いした人が、事情聴取されてるんだって」

「犯人は西通りに追い込まれて、そろそろ確保されるらしいよ」

 真偽の程は定かでないが、噂話に真実がわずかなり含まれているとしたら、あの蜘蛛の糸を持つ怪異のような何かが、何かを探していて、そろそろ確保されるのだろう。仲違いした蜘蛛の、仲間。きっとたぶん、裏切り者。


 路地をぐるぐる回りながら、久賀は悩んでいた。このままでは、集合時間に遅れてしまう。

 今晩、この辺りで捕物があるらしいとは聞いていた。塾の帰りに、学生達が噂していたのだ。とある露店に、合格祈願や恋が叶う運命の糸とやらが売られていて、数人はうまくいったが、数人は廃人になったとか。その露天商はこれまで、一度出会った者には二度と会わず、なかなか苦情も届かなかったらしいが、ついに今日、警察が踏み込むという。

 本当に、さっさと捕まえてくれたら良いのだが。そんな露天商が実在するなら。

「しかし、捕まえるにしろ、捕物に一般市民を巻き込まなくてもいいと思うんだが」

 露天商が怪しげな噂に巣食うなら、それを捕まえる連中も怪しげなのかもしれない。さっきから接触する大人は皆どこかおかしいし、おかげで路地をなかなか出られない。

 路地の外で捕物があるのか、路地の中で行うから部外者には出ないで隠れていてほしいのかどうか、よく分からない。規制線を用意するなり、もっときちんとしてほしいものだ。

 次に絡まれたら文句を言おう、と久賀が決めた頃、路地が行き止まりになっていた。

 怪しげな帽子の男が、突き当たりの地面に座っている。

「あっ、お前が露天商か!」

 うんざりした気持ちが、大きな声で出てしまった。久賀が剣呑な言い方をしたせいか、売り物の説明をしようとした男は、バツの悪い顔をして立ち上がった。

「ええい、今日は商売はしない、帰れ帰れ!」

 しわがれた声で脅される。普通なら、逃げ出しただろう。何しろ、男の背中からは、見たこともない程大きな、三対の、節くれた腕が突き出している。その鋭い爪先が、宙をかいた。

 久賀は小さく悪態をつく。

「悲鳴もあげてやれなくて、悪かったな」

 いざとなれば、紙のテキスト等を詰めた鞄で殴ろう、と身構える。受験生の勢いを舐めるな。気迫で押し負けるなど、あるわけがない。強い気持ちが大切だ。映画も観なくてはならない、早く仕留めてやる。

「若者を誑かす悪い輩は、どうしてくれようか……」

 久賀は、何の変哲もない、ただの学生だ。だというのに、露天商を騙る怪異の足が、じりじりと後ろに下がっていく。

 なぜ、と、怪異が自問しているうちに、ビルの壁面まで追い詰められた。元々突き当たりに出店を広げているからだが、こういう詰められ方は想定外だった。

 怪異は、咄嗟に壁を這い上がっていく。人間には、ついて来られまい。ただの人間から逃れられてほっとする思いを、怪異は予想外のことが起きたから仕方ない、と慰めた。

 一方地上で、久賀は鞄を一旦おろした。

「あれは蜘蛛か? 蜘蛛は益虫だから殺すなというし、縁もある、が」

 つつ、と、怪異から久賀の足元に、白くて細い繋がりが浮かぶ。少し手足が引っ張られる感触がした。遭遇当初にやられたのか。操ろうとでもしたのだろうか? 吹けば飛ぶような細さの糸で、けれど、久賀が指で触れてもびくともしない。何かに使えそうな丈夫さだ。思案して指でなぞるうちに、蜘蛛の縦糸のようなそれを、誰かが切った。

「危ないですよ」

 と、制服姿の女子高生が久賀に声を掛けてくる。

 久賀は少し引きつった笑みを浮かべた。

「俺には、そっちの方が危なそうに見えるけどな」

 女子高生は、久賀の視線の先にある、片手に握ったカッターナイフを、軽く振った。

「これは、工作用ですから。ところで、アレなんですけど」

 ビルの屋上まで這い上がった怪異だが、ばさり、と広げられた網によって捕獲された。待ち伏せされていたらしい。網は、普通の、ただの防犯対策用品のようだ。化け物相手だろうに、札だの呪術など関係なさそうに見える、何の変哲もない捕物だった。

 実際、背中の腕と、壁を素手で登っていったこと以外は、ただの違法な露天商と、その捕物である。

 女子高生が、カッターナイフの刃を出し入れして小刻みに音を立てた。

「貴方は、変なものは見なかった、知らなかった。いいですね?」

「いいよ。俺は一般市民だから、見なかったことにした方がいいものは口外しないよう気をつける。あ、でも、アレがここに出た理由くらいはそっちで確認してから、処分なり、山に放すなりした方がいいとは思う。今後同じような事件を起こすのはどうかと思うので」

「余計なことです」

「一般市民なので。そういう設定で暮らしているので、よく分かんないけどちゃんとしてほしいなと思っちゃうのは仕方ない」

「……はぁ。本当に気をつけてくださいね? 向こうは貴方を知らないようです。何かあってからでは遅いので」

 女子高生がいくらか優しげな口調になるが、久賀は無視して路地を出た。一般人なので、怪異と触れ合うような人とは、知り合いではない。そういう設定で暮らしている。


「遅くなってすまん! ちょっといろいろあって!」

「久賀、大丈夫だったか?」

 映画館前で、学生達は合流する。まだ来ていない者もいたが、皆、既に連絡はついていた。

「向こうの通りで変な事件があったらしいけど」

 と、話しかけられたので、久賀は鞄を抱え直して頷いた。

「あったあった、何か露天商が違法営業してるからって、追い回されてた。やっと捕まったって」

 変なものを見たことは黙っていろと言われたが、露天商の話は口止めされなかった。適当に話してしまうことにする。

 騒ぎながら、映画の上映時間が迫ってきたので建物に入る。

 怪異はあって、何事かの気配は蠢いていたけれど、平和ではあった。

 いても、いない。

 そんな日もある。

 神事(かみごと)にもさまざまあって、当然ながら、土地土地、時代時代で、言い伝えは揺らぎ、変わっていく。

 あったことも、なかったことも、皆、ゆるゆると話し合われ、なかったことになり、あったことになり、一世代二世代前からの聴いた話でしか伝わらなくなる。

 仕様のないことであると、歳を経たものは知っている。もはや先々々代の意向は分からぬ。

 残された神事は省略され、元の形を留めない。

 それは仕方のないことだ。

 人手もなく、伝えもなく、よって多くの祭事は手短かにされ、意味の分かりにくいものは省略され、大ぶりで見映えがよく、持て囃される祭事が生き残る。

 若い者は今しばし悩む。

 さて、これは、この神事は、この言い伝えは、本当にあったことだろうか。本当にやらなくてはならないことか、これほどまでに逃れ得ないものであろうか、強固であろうか。と、若い者達は考える。

 若く、土地を逃れようとする者は考える。

 魂さえも歳ふりて、世俗にのまれがちな中で、ふと気づいてしまう日がある。

 怪異さえ生き残りのために己が存在を言いかえて、言いかえして、するりするりと変わっていくのを、観測して捉え直すのは大変だ。一つの名や場所にはとらわれきらず、さまざまな伝承は容易に混ざる。

 ではなぜ、この土地では、あれを祀ったままなのか。

 もうすぐ忘れ去られてしまうかもしれない場所で、古来そうであると言われている何かのことは、本当に、祀り続けなくてはならぬものなのか。

 我々は、犠牲に、ならなくてもよいのではないか、と。

 いや、ならぬ。

 ざわざわと、歳ふりた声がこれ見よがしに言う。

 ならぬ、ならぬ。残さねばならぬ。解き放ってはならぬ。失ってはならぬ。

 幸いを与えるものは、厄災にもつながっている。

 祀り続けなくては、あるいは、この先に、それは。


 どこから来て、どこへゆく習俗であったのか。

 もう少し、もう少しと先延ばしする。

 それを積み重ねて生き延びる。

 他に手立てはないか。

 じわじわと広がるのは、虚無か諦めか。

 諦めるのはいやだな、と、思った。

 誰も諦めなかったから、ここにいる。

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銀月の一族 せらひかり @hswelt

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