女優は二度死ぬ。一度目は刺されたとき、二度目は忘却されたとき

女優志望の25歳・友里恵が殺害されたことをきっかけに、自称ライターの藤田が、関係者に聞き込みをしていく様子を描いた作品。

荒削りだが独特の緊張感を持った心理小説で、芥川龍之介の「藪の中」を彷彿とさせる。
が、この作品では犯人や動機はもはや重要ではない。

ここで表題を想起すると、つまり死者の情報を集めることで死者のイメージを再構築する作業がまさに「エンバーミング」「カットアウト」ということになるのだが、いわば本作はその時間的進行の中で人々が振り回され、発狂や忘却という形で変容していく様が、テープ起こしや手紙といったメディアの意匠を駆使することで描かれる。

ミステリであれば、謎という中心へ物語が収斂する様子が描かれるだろうが、この作品ではむしろ発散していくところが興味深い。

登場人物はそれぞれ好き勝手なことを言い、犯人である峠の述懐すらもはや友里恵そのものとかけ離れた、独自のイメージを語ることになる。
そんなところへ連れて行かれる読書体験が奇妙に心地よい。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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